デザインとブランドはどこへゆく? AI時代のクリエイティブ談議 #02
NOZAWA GINを手がけた徳田祐司氏が語るデザイナーの役割 価値の送り手と受け手を繋ぐ「共感できる一貫性」の発見
2026/08/20
デザインもアートも、起点となるのは「問い」
徳田 僕は以前から、「語れるデザイン」をつくりたいという思いを持っています。
広告会社出身のデザイナーは、一般的に作家性が前面に出るタイプはそれほど多くないと思うんです。もちろん、僕らの共通の友人である青木克憲くんや中村至男くんのように、強い作家性を持つデザイナーには大きなリスペクトがあります。ただ、僕自身は、自分の表現を前面に出すよりも、「そのクライアントにとってのベストワークとは何か」を考え続けてきました。
もちろん、自分の感性や意思は必ずフィルターとして入ります。でも、最終的にデザインは僕のものではありません。送り手であるクライアントのものであり、それを受け取る人たちのものでもある。だからこそ、クライアント自身が自信を持って語れるデザインをつくりたいんです。メーカーであれば、営業担当の方が小売店や卸の方に向かって、「これは本当にいい商品なんです」と、自分の言葉で熱を持って語れるようになる。そういう状態をつくることが、デザインの役割だと思っています。
NOZAWA GINで言えば、「水の巡り」というコンセプトを見つけて言葉にしたのは僕かもしれません。でも、それが僕のものではなく、村の人たちのものになり、ブランドに関わるみんなの言葉になっていくことが、一番嬉しいんです。
秋山 クライアントの思いや言葉を自分の中で解釈して、それを形にして返す。まさに広告の仕事の思考だよね。
でも一方で、徳田くんは、銃口から花が咲いている作品のようなアートも制作しているでしょう。ああいう作品は、どんな気持ちでつくっているの?

徳田 僕も具義ちゃんも美大を出ているから、「表現者でありたい」という気持ちは、とても強いと思う。ただ、その表現が何に向いているのかは、デザインとアートではまったく違います。
デザインは、クライアントという「他者」から始まります。相手の思いを受け取り、自分なりに解釈して、最適な答えとして返していく仕事です。一方、アートにはクライアントがいません。自分自身が問いを立て、自分自身が答えを探し、自分自身が最初の鑑賞者になる。その違いは、とても大きいと思います。
秋山 自分の作品だと、「これが正解です」と言い切るのは難しいよね。でもクライアントワークでは、「これが答えです」と言える感覚がある。
徳田 まさにそう。だから僕は、アートとは「自分が最も興味を持てる問いを見つけ、その問いに一生かけて向き合う行為」なんじゃないかと思っています。
クライアントワークでは、問いはクライアントから与えられます。たとえば、「野沢温泉村の素晴らしさを世界へ伝えたい」という問いです。でもアートは違う。問いそのものを、自分で見つけなければならない。だから本当に難しいんです。
僕が最も尊敬している芸術家は、アンリ・マティスです。フォーヴィスム(野獣派)の中心人物として成功したあとも、彼は「色や形はひとつではない」という問いを持ち続けました。絵とは、目に見えたものをそのまま写すことではない。もっと純粋な色や形を追求できるはずだと考え、生涯にわたって探究を続けたんです。
そして70代で大病を患い、車椅子生活になってから、それまでのように大きなキャンバスへ筆を走らせることが難しくなります。そこで生み出したのが、ガッシュで彩色した紙をハサミで切り抜く「切り絵」の技法でした。
70代で大病を患って車椅子生活となった後、大きなキャンバスに絵筆で描く代わりに生み出したのが、ガッシュで彩色した紙をハサミで切り出す「切り絵」の手法です。
40年もの探究を経て、「自分は色に形を与えていたのだ」ということにたどり着き、切り絵の版画集『Jazz』やヴァンス・ロザリオ礼拝堂など、晩年の代表作を生み出していく。
あの、自分だけの表現にたどり着いたときの、迸るような喜びを見るたびに、本当にかっこいいと思うんです。
自分の手法を見つけた時の喜びのほとばしり方がたまらなくかっこいいなと思って。結局、自分は何に答えようとしているのか。その問いを持ち続けることが、アートでは何より重要なんだと思います。
実は、その「問い」はデザインでも同じなんですよね。僕が尊敬しているコピーライターの太田恵美さんは、クライアントから依頼を受けると、すぐにコピーを書き始めることはありません。まず、「なぜこの仕事が自分に来たのか」。「そもそも、この仕事にはどんな意味があるのか」。そんな、依頼内容よりもさらに上流にある問いから考え始めると聞きました。
一見すると遠回りに見えます。でも、そのプロセスを経ることでしか、本当にぶれない答えにはたどり着けない。僕はそう思っています。
秋山 今はAIに頼めば、それらしいタグラインやステートメントがいくらでも出てくる時代だからね。だからこそ、太田さんのように「問い」から考えられる人は強い。太田さんが書くから意味が生まれるし、言葉に力が宿る。
結局は、クライアントから受け取ったものを、自分の中でどう解釈し、どう形にして世の中へ送り出すか。そのストーリーまで含めて具現化できる人だけが、これからも必要とされるんだろうね。
徳田 ブランドについても、同じことが言えますよね。最近は、「AIが最適解を提示するようになれば、ブランドという概念はなくなるのではないか」という議論があります。星野リゾートの星野佳路社長も、「AIが最適解を提示する時代には、ブランドの役割は変わる」という趣旨のお話をされています。
だから、僕はChatGPTに「ブランドは本当になくなるの?」「あなたが紹介したいブランドって、どんなブランド?」と聞いてみたんですよ(笑)。
すると返ってきた答えは、とても納得できるものでした。「本質は変わらない。理念やアイデンティティという軸があり、『何をして、何をしないか』という判断が一貫しているブランドを紹介し続ける」と。
つまり、一貫性こそが信頼になるということです。僕たちデザイナーは、その一貫性を新しくつくるというよりも、本来そこにあるものを発見し、言葉とビジュアルに翻訳して届ける役割なんだと思っています。
NOZAWA GINでいえば、野沢温泉村の歴史や自然、「文化を守りたい」「おいしいものをつくりたい」という人々の思い。そのすべてに共通して流れていたのが、「水の巡り」という思想でした。
僕はいつも、「なぜ、それが良いと思えたのか」という理由を言葉にしてから、ビジュアルとセットでクライアントに届けるようにしています。言葉とデザインを共有することで、ブランドはデザイナーだけのものではなく、関わる人みんなのものになっていく。
僕たちの仕事は、ただ形をつくることではなく、ブランドの中にある一貫性という「ブレなさ」と、ただブレないだけではなく受け手が「その考え方、いいよね」と共感できるものを発見すること。デザイナーはその役割を担っている気がしますね。
(後編に続く)

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