デザインとブランドはどこへゆく? AI時代のクリエイティブ談議 #03

AI時代のデザイナー、そしてブランドに求められるのは「人々を新しい価値観へと連れ出す力」 

前回の記事:
NOZAWA GINを手がけた徳田祐司氏が語るデザイナーの役割 価値の送り手と受け手を繋ぐ「共感できる一貫性」の発見 
 デジタルメディア・チャネルはますます多様化し、AIは驚くべきスピードで私たちの暮らしや仕事に浸透しつつあります。企業・ブランドを取り巻く環境が劇的に変化する中で、その企業・ブランドの「あり方」や「らしさ」を表現する際の考え方や方法論もまた、変化を迫られているのではないでしょうか。

 ロゴや広告はもちろん、言葉やメッセージ、関係者の振る舞いを含むUI/UXまで。秋山具義(クリエイティブディレクター / アートディレクター)が、第一線で活躍するクリエイターとの対話を通じて、現代のブランド表現のあり方を問い直すとともに、これからのデザインの可能性を探ります。

 今回は、ブランディングデザインカンパニー・canariaの代表でクリエイティブディレクターの徳田祐司氏をゲストに招き、「良い」デザインの本質や、これからの時代に求められるデザインについて議論しました。

 企業ブランディング、商品企画、広告・コミュニケーションなど、広範で多様なプロジェクトを手掛け、国内外で多くのデザインアワードを受賞してきた徳田氏が考える、AI時代におけるデザイン役割、そして選ばれるブランドの共通点とは。

前編はこちら
 

デザイナーの身体感覚が、人々のブランド参加を促す


ー NOZAWA GINのデザインは、徳田さんが野沢温泉村で感じた「分厚い水の上に立っている」という身体感覚が、視覚的に表現されているのが印象的です。徳田さんがクライアントから受け取り、現地での体験を通して紡ぎ出したストーリーのすべてを、言葉だけで受け手に伝えることは難しいと思います。だからこそ、その身体感覚そのものをデザインに落とし込むことで、受け手の心に届き、思わず誰かに「語りたい」と感じさせるのではないでしょうか。

徳田 まさに、自分の身体で感じたことが大きいと思います。

インターネットで調べたり、八尾良太郎さんをはじめとする現地の方々から話を聞いたりするだけではなく、実際に自分の足で村を歩く。坂道の傾斜を身体で感じ、村の人たちと食事やお酒をともにする。そうした体験のすべてがあって、最終的にあの形になりました。これは、エスノグラフィという、実際に体験して知る調査手法です。



コンセプトを考える過程では、AIとキャッチボールをすることもあります。ただ、そこに自分自身の体感が加わることで、アイデアにリアリティが生まれます。

ワインでいう「テロワール」、つまり土地の個性に近いのかもしれません。気候や土壌があり、そこにどんな動植物が生息しているのか。どのような農家の方が、どんな環境の中でブドウを育てているのか。そうした土地にまつわるあらゆる要素が、ワインの味わいを形づくっています。

そして、背景にある情報や物語を知ることで、実際に感じるおいしさも変わるんですよね。

ー 秋山さんのお仕事にも、同じことがいえそうです。飲食店のデザインでは、実際に店へ足を運んだり、店主の方とじっくり話したりしたうえで、ロゴやグラフィックをつくるとおっしゃっていました。

秋山 新店の場合は、まだ店舗そのものが存在しないこともあります。でも、まずはとにかく話を聞きますね。

過去に、メールでの簡単なやり取りだけでロゴデザインを依頼されたことがあったんです。やってみたものの、やはりうまくいかなくて、相手が思い描いていたものとまったく違う結果になってしまった。そうした反省もあって、たとえ個人経営の小さなお店であっても、きちんと話を聞かなければ、その店にふさわしいデザインはなかなかつくれないと思うようになりました。

たとえば、東京・学芸大学に「焼き鳥 右羽(うう)」という店があります。そこの店主からは、ロゴだけではなく、店名も考えてほしいと依頼されました。
 


最初は、「子どもの名前を店名にしたい」という話だったんです。それ自体は素敵な案ですよね。ただ、お子さんが二人いて、どちらか一人の名前だけを使うわけにもいかない。二人の名前を組み合わせることも考えましたが、なかなか決め手がありませんでした。

そこでいろいろと話を聞いていると、店主が「若い頃はサッカーしかやっていませんでした」と言うんです。ポジションを尋ねたら、「ライトウイングです」と。

それを聞いて、「ウイングは翼、つまり羽だから、少し焼き鳥らしさもあるな」と思いました。それなら漢字の「羽」の右側を使って、それを「う」と読ませたらいいんじゃないか、と。「う」という音も短くて印象に残る。そこで「焼き鳥 右羽(うう)」という名前にしました。その会話を起点に、ロゴのデザインも自然に決まっていったんです。

徳田 僕は、あれも好きだな。「Burger POLICE」(笑)。



秋山 「店はどこにできるんですか」と聞いたら、碑文谷警察署の隣だというんです。それで「Burger POLICE」にしました。

碑文谷警察署の隣にあるハンバーガービストロで、僕がネーミング、ロゴを手がけています。

面白いのは、その名前にしてから、店へ行ったお客さんがSNSで「Burger POLICEに“出頭”してきました!」と投稿するようになったことです。そこまでは予想していなかったけれど、名前にひとつの切り口を与えることで、お客さん自身が遊びながら言葉を生み出し、店の物語を広げてくれる。そういう面白さがありますよね。

徳田 いいよね。ネーミングの背景に文脈があるから、お客さんも自分なりに参加して、SNSで語りたくなるんだろうな。
 
秋山具義 氏
デイリーフレッシュ 代表取締役
クリエイティブディレクター/アートディレクター

1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。日本大学芸術学部 デザイン学科 客員教授。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学 コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。著書に「こうやって、センスは生まれる」「世界はデザインでできている」「ファストアイデア25」がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。テレビ朝日『キッチンカー大作戦!』にグルメ賢者としてレギュラー出演中。2025年3月にカイカイキキのギャラリー「Hidari Zingaro」にて『秋山具義の陶芸展』開催。今年より作詞家としての活動も開始。

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