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新・消費者行動研究論

「SNSの普及で、消費者の意思決定プロセスが循環型になっている」慶應義塾大学 清水聰教授

企業は「循環型意思決定プロセス」を捉えるべき

 従来の意思決定プロセスは、一人の消費者が商品を認知し、興味を持ち、情報探索し、購入し、そしてその商品に満足するまでの道筋を示すのが研究の目的で、購入後にその経験を人にクチコミすることは想定していなかった。

 また、その道筋を企業がコントロールできる、コントロールしよう、という発想が根底にあった。しかし、「インスタ映え」を狙って自分の経験をネット上に発信する人が増え、しかもそれが売上に影響するようになると、消費者の購入に留まらず、その先の発信までの道筋を解明する必要が出てきた。

 企業がコントロールできない情報が巷に溢れ、それが売上に影響するのだから、「購入」のみならず、その後の「発信」を目的とした意思決定プロセスの研究が求められるのは当然のことだ。

 その状況下で私が提唱しているのが、「循環型意思決定プロセス」である。

 これは今までの意思決定プロセスが、認知から購買、満足までの一方通行だったのに対して、消費者の行動を大きく購買前の行動、購買の場の行動、購買後の行動に3分割し、購買後の行動が、その人の次の購買前の行動、および潜在消費者の購買前の行動に影響する、情報の循環を仮定したプロセスだ。

 購買後と次の購買前を繋げたことで、個人の消費者のリピート購買のプロセスと、まだその商品を購入していない潜在消費者の購買前行動に、既に購入した人のクチコミが影響するプロセスの、2つのプロセスを説明できるようにしたのがミソである。

 この循環型を仮定すると、コミュニケーションの新たな役割が見えてくる。従来、テレビCMは認知率が、店頭での販売促進は購買時の即効性が、それぞれ成果指標だったが、「インスタ映え」した商品が売れる現代では、「認知率が上がった」「プロモーションが効いた」だけではなく、世の中で「話題になる」こともコミュニケーション戦略の成果に含むべきだろう。
 
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 話題になれば消費者に購入してもらえるチャンスも増え、話題になり続けていれば、ライバルの新商品の参入障壁にもなる。

 つまり、自社ブランドの情報が、人々の間でグルグル循環し、常に話題になっているかどうかも、CM認知率やプロモーションの即効性と同様に、大事な成果変数になってきているわけで、それを捉えられる「循環型意思決定プロセス」は、実務との新たな接点を示しているといえるだろう。

 情報過多の時代、企業が消費者をコントロールすることを前提に考えられてきた、従来の意思決定プロセスを実務に応用するには限界がある。消費者をいい意味で巻き込んだ、新たなコミュニケーション戦略、マーケティング戦略が必要だろう。
 
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