行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #01

炎上が多発している原因は、マジックミラー錯覚と内集団バイアスにある

 

自分が帰属する集団で「常識」は少しずつ違う


「マジックミラー錯覚」の怖いところは、自分の常識では「誰も傷付けないはず」だと思っても、実際にはその予想に反して、お叱りの声を多くもらう可能性がある点です。つまり、常識の範囲内で投稿したら、自分の常識が世間の非常識だったという場合があります。

 これが、とても難しいことが分かる例が、大手生命保険会社が配布したカレンダーに対する非難・批判の嵐です。
 
https://twitter.com/1024kinako/status/1267592359006502912

 いいね数は執筆時点で2000を超えて、400以上リツイートされています。「持つべきものは子」とは、室町時代の叢書本謡曲・苅萱の一説をもとに、「我が子は他人がしてくれないようなことをしてれくれるのだから、子どもを大事にしよう」ということわざです。

 単なることわざに過ぎないのですが、30代後半で未だ独身の私からすると、実家に帰ったときにチクチク言われるあの嫌な気分が蘇る言葉でもあります。

 家族、近隣住民とのコミュニティ、国家、会社、学校、趣味の友人、ネット上の友人…、人は誰もが集団に所属しています。その集団に対する帰属意識が高まり、所属欲求が高まるほど、内集団バイアスと呼ばれる「思考の歪み」が生じます。その歪みが大きくなるほど、世間から非難・批判の声を浴びる可能性が高くなるのです。

 そもそも内集団とは、アメリカの社会学者であるウィリアム・グラハム・サムナーが表現した概念です。所属する集団と自らを同一視し、「私たち」という感情を抱く傾向を意味しています。内集団に対する好意度が高まると、「内集団だから許す」「内集団だから無条件で好意的な態度を取る」といった内集団バイアスが起きます。
 
 内集団は、その中でのみ通用する常識や価値観を持っています。親戚の集まりに呼ばれて「まだ結婚しないの?」と言われても誰も非難しないのは、そういう常識や価値観で成り立つ内集団だからです。つまり、内集団とはひとつの世間みたいなものだと言えますし、私たちは複数の内集団の最小公倍数的な常識や価値観の範囲内で生きているのです。

 そして「炎上」とは、こうした内集団の常識や価値観と相容れない内集団による非難・批判から起きます。先程の生命保険会社のカレンダーに対する非難・批判も、ひらたく言えば「常識や価値観の相違」です。おそらく、この大手保険会社の主要顧客は、子どもがいる50代以上の世代かもしれません。SNSを通じて「そうした主要顧客以外の人の目にも留まった」という点で、内集団の難しさを感じずにはいられません。

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