マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #01
習慣の魔力。どうすれば、人は繰り返し買うようになるのか
習慣のループを利用しよう
これらの仕組みを考えると、マーケターにとっては、顧客が自社の商品やサービスを消費する「きっかけ」とそれを使った後の「報酬」を明確にすることが、最初の一歩となりそうです。
どのような場面、どのようなタイミングで使われ、それによってどんな報酬がもたらされるのか。もちろん報酬には、気持ち・感情なども含みますし、消費者本人もそれに気づいていないことも多いです。
またそれらは、消費者の行動の観察や調査からボトムアップ的に浮かび上がることもあるでしょうし、こう使ってこう感じてほしいという提供する側の思いをトップダウンで明確にすることもあるでしょう。
たとえば、少し前にヤクルトの「うがい・手洗い・ヤクルト♪」というフレーズのテレビCMを拝見しました。このCMでは、帰宅時のうがい・手洗いをヤクルト消費の「きっかけ」とし、おいしい、健康、家族の笑顔などの「報酬」までを含めて一連の習慣ループと捉えられると感じました。
いずれにしても、きっかけと報酬が明確になれば、それらをどうコミュニケーションや商品・パッケージ開発などに生かすかが、次の課題になります。
「Above-the-line (マスメディアを活用した展開)」を中心とした広告コミュニケーションでは、商品やサービスの消費・使用そのものだけでなく、その「きっかけ」となる場面や文脈と、その行動から得られる「報酬」までをトータルで描き、習慣に結び付けることが重要になります。
ちなみに、少し横道にそれますが、脳の報酬回路の研究によると、報酬を予期させる「きっかけ」はその商品を欲しいと思う欲求、ひいてはトライアル購買に、そして報酬そのものの描写はその商品・ブランドを好きになる、ひいてはリピート購買(ロイヤルティ)に、それぞれ高い効果が期待できると考えられています(脚注3・記事末参照)。
きっかけから報酬までをトータルに描くことは、その点でも効果が期待できるのでお勧めです。
一方、「below-the-line (セールスプロモーションメディアを活用した展開)」では、普段の習慣的行動のきっかけになるようなイメージを含むキービジュアルや、可能な場合は店頭での試用による報酬体験などで、習慣をうまく利用できるかもしれません。
たとえば店頭で、元気な子どもが外から帰った瞬間のキービジュアルによって、ハンドソープを無意識に連想させることなどが例として挙げられます。
小売店なら、店内での顧客の行動は、ある習慣ループが次のループのきっかけになるような形で連鎖的に、入り口から決まったルートでまさに自動操縦モードでのナビゲーションとなり得ます。
その自動操縦モードを確立した上で、さらに特別なプロモーションなどでその時々のフックを加えると、処理容量の限られた怠惰な脳を持つ私たちでも、楽しく有益なショッピングができるようになり、一消費者として私自身も嬉しいです。