マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #02

記憶を味方に。ブランド価値を高める秘訣は「脳の仕組み」の理解にある

 

マーケティングの対象が、意味記憶に偏っていませんか?


 脳内に異なるシステムが存在するということは、マーケティング活動でも、それぞれの記憶に対してアプローチの仕方を変えるべきかもしれません。

 たとえば、エピソード記憶は変容が起こりやすく、覚えるのも比較的容易でかつ速い。一方、意味記憶は、いったん定着すれば比較的しっかり記憶に残りますが、消費者にとって負荷が高く、学習に時間もかかります。

 手続き記憶はその獲得にさらに長い時間が必要ですが、健忘症やアルツハイマー病の後期でも残っているほど頑健で、そのため、服薬を忘れないように「習慣」のシステムを使うこともあるほどです。



 そんななかで、マーケティングの対象は、意味記憶に集中する傾向にあると感じます。とにかく名前を憶えてもらおうと連呼したり、詳細な機能特徴やスペック、RTB(reason to believe:信じられる理由)、競合との違いなどを理詰めで説明したり。

 そう言うと、「エモーショナルベネフィットも考慮しています」などの反論を受けることがありますが、ちょっと論点がズレていることが多いです。感情を言葉で無理やり説明して、説得しようとする・・・。感情の押し売り。そうじゃないんです。
 

ブランド資産のネットワークを広げる


 せっかく多様な長期記憶があるのですから、有効に活用したいですね。そのためには、知識・概念で説得して意味記憶に残すだけでなく、「体験」をつくることや言葉で説明できない潜在記憶をブランド資産として構築していくことが大事だと考えます。

 それを実現するために、実務上では、記憶要素のネットワークを想定すると分かりやすいと思います。下の図のようなイメージです。



 このネットワークの個々の要素は、色、音楽、ジングル、セレブリティ、フォントやシンボルなどの表現的なものから、タグラインやプロダクトの情報、コンセプトや価値提案など概念的な要素まで、多種多様です。
 
 このネットワークをうまく構築するために、先ほどの長期記憶の分類を念頭におくことが有用だと考えます。つまり、機能特徴やRTBなどの意味記憶だけでなく、エピソード記憶や潜在記憶をうまく活用したい。
 
 エピソード記憶では、商品やサービスが「いつ」「どこで」「だれと」「どのように」使われて、どういう感情体験をもたらすのか。これなら、消費者の努力を要さずに記憶に残りやすいし、感情を伴って自分事としてとらえられるので、意思決定のドライバーとしても、意味記憶より有効なことが多いです。

 そして潜在記憶では、色や音・ジングル、匂いなど、言語以外の側面で、主にブランドを想起させるようなCue(合図)を構築すること。ブランドと結び付けるには時間と工夫が必要ですが、いったん結び付けば、主に無意識に自動的にはたらくので、購買行動中はもちろん、それ以外の日常の生活の中でも、気づかないうちにブランド想起、ひいてはエクイティ向上に寄与するはずです。

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