行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #03

「人はなぜ、その商品を好きになるのか?」行動経済学でメカニズムを解き明かす

 

投影は暴走する。ブランドはどう向き合う?


 ただし、投影もしくは共感から生まれたブランドに対する「好き」という感情も、期待が大きくなり過ぎるとやがて「歪み」が生じてしまうと筆者は考えます。

 特に投影を通じて好きになった場合は、自分の思う通りに行動してくれないと「自分を映し出せない」ので、好きじゃなくなるか、あるいはブランド自体をコントロールしようと考えます。すなわち「以前の方が良かった」「こんなの信じられない」というバッシングです。

 例えば、米国を中心に起きているBLM運動に端を発し、暴力的な投稿を削除しなかったFacebookへの広告出稿を一時的に停止する企業が増えているという報道がありました(Facebookに対する広告ボイコットのキャンペーン名が「#StopHateForProfit」なのは、さすがにギョッとします)。
 
写真提供:123RF

 この背景には、企業(の中の人)が主旨に賛同して停止するべきだと思ったからだけでなく、消費者がFacebookへの広告出稿に反発するからという理由があると推察します。「そんなの、私たちのブランドじゃないよ」という声もあったのではないでしょうか。

 ただし「私たちのブランドはこうあるべき」と言われると、そこまで愛してくださったことに心からの敬意を抱きつつも、そのブランドが一種のステレオタイプ(先入観、思い込み、固定概念など類型化されたバイアス)に陥っているとも見えます。

 そうなると、どこかでブランドと消費者の間で「健全な別れ」が必要だと感じます。ステレオタイプに固まった消費者の「こうあるべき」という考えに囚われていたら、ブランドがパーパスを掲げても「今のお客さんにウケないんじゃないか」という声に阻まれて、変化ができません。時代と共に考え方は変わります。人も変わります。ブランドも変わって当然です。

 あるべき目的に沿って、本質を変えずに姿・形を変えていくことを応援してくれるファンが、どれくらい居るのかは凄く大事でしょう。そういう意味では「ファン」も大事ですが、ブランドがブランドらしく輝き続けることを応援してくれる「ファン」こそ大事ではないかと考えるのです。

※マーケティングフォーラム「ネプラス・ユー(オンライン開催)」では、執筆者である松本さんがモデレーターを務めて「行動経済学 × マーケティング」のセッションを行います<9/16(水)配信>。詳細は、こちらをご覧ください。

 <今回の参考文献>
 シャーロック・ホームズの思考術(マリア・コニコヴァ)
共感の心理学
他の連載記事:
行動経済学で理解するマーケティング最新事情 の記事一覧

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録