マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #03

行動経済学のマーケティングへの導入が、表面的にしか進まない理由

前回の記事:
記憶を味方に。ブランド価値を高める秘訣は「脳の仕組み」の理解にある
 

行動経済学はなんとなく知ってはいるけど・・・


 ダニエル・カーネマン博士がノーベル経済学賞を受賞してから、もう20年近くが経過しました。その間、一般向け書籍なども数多く出版され、行動経済学に関する概念は、少なくとも表面的にはマーケターにも浸透してきたように思います。

 特に、人間のほとんどの判断が、いわゆる「システム1」を介していること。つまり判断に至る時間は速いが、必ずしもそれがロジカルに正しいわけではなく、判断結果に一定の偏り(バイアス)が含まれることが多いという事実が、広く知られています(システム2は、考えないと分からない遅い思考システムです)。

 しかし、何となく知ってはいても、それを広告コミュニケーションにどう反映させればよいか、悩んでいるマーケターも多いのではないでしょうか。

 私はその悩みの原因も、マーケター自身の「システム1的な思考」にあると考えています。今回のコラムでは、まずその意図と理由を説明し、それらを踏まえて、マーケターがとるべきアクションを考察したいと思います。
 

感情がアクションを引き起こす:理由は後付け


 下の図は、消費者行動の2つの流れを、大きく簡略化して示しています。図の中で、「ACT」は、コミュニケーションに対する消費者のアクションとします。店頭なら、商品を手に取ったり、実際に購入したり。マスメディアの活用なら、それを受けて店頭に足を運んだり、オンライン購入したり、あるいはSNSで共有したり。



 直感的に考えると、Aの流れのように、それらのアクションは何らかの考慮(THINK)の結果にもとづいて行われそうです。そのためマーケターは、そのアクションを起こしてもらうために、あの手この手で消費者を説得しようと試みるわけです。

 しかし実は、実際に消費者の中で起こっていることの大半は、Bの流れだということが分かってきました。つまり、消費者自身が気づかないうちに先に感情(FEEL)の反応が生じ、それが意思決定やアクションを喚起する。そして、その理由を後から考える。

 理由は後から考えているのだから、それを使って新たに消費者を説得しようとしても、なかなかコンバージョンは起こりません。だから、説得ではなく、無意識の感情にドライブしてもらうほうが有効だというわけです。

 そこのところを、科学の視点からもう少し深堀りしていきましょう。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録