行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #04

行動経済学とマーケティングの知識を駆使して、消費者の「好き」という感情を分解してみた

 

好きだから買うのか、買うと好きになるのか


 筆者は、これまで”好き”こそ、商品が買われるための必要条件だと考えていました。マーケティングサイエンスの一般的な手法のひとつで知られる共分散構造分析をする際も、”好き”だから”購買”するという因果関係でモデルを組んでいました。

 しかし、小野教授の示した「ロイヤリティ分類」を見ると、使っているうちに態度的ロイヤルティが高まり”好き”になる場合も十分に考えられます。富永さんが指摘したように、まずは弱い「Related(つながり)」があって、少しずつ距離が縮まっていくのです。

 つまり、”購買”すると”好き”になるという、逆の因果関係も起き得るのではないでしょうか。もしかしたら保有効果(行動経済学の心理傾向のひとつで、いま保有しているものの価値を高く感じて手放したがらない傾向)が働いているのかもしれません。

 筆者の疑問に対して、富永さんは「消費者行動論のABCモデルで考えると良いかもしれない」と教えてくれました。それぞれAffect(感情)、Behavior(行動)、Cognition(思考)の頭文字を意味しています。例えば、感情を抱きようがない、大量生産されたコモディティ商品の場合、まずBありきでCがあって、Aは起きません。

 例えば、清涼飲料水の場合、大量に放映されたテレビCMによって、まずCがあってBがあって、飲んで美味しかったらAに繋がるでしょう。ラグジュアリーブランドの場合、まずCがいっぱいあって、どんどん好きになっていきAが高まり、最終的にBが起きるでしょう。つまり、商材が属しているカテゴリによって”好き”が生じる順番やタイミングは異なるのではないか、というわけです。



 「好きだから購買も起こるし、購買したら好きになるだろう。だから、自社ブランド(自社カテゴリ)では、消費者はどのような行動を起こすかを知るべきだ」という富永さんの指摘はもっともです。

 小野教授は「反復購入するものは、最初に買い始めたときと、ある程度の時間が経過したときでは”好き”のポイントが異なるはず。何が選好に影響するかは変わる」と教えてくれました。

 初回購入のライトなユーザーと、何度も繰り返し買っているヘビーユーザーでは、見るべきポイントも当然変わるでしょう。慣れてくると今度は”飽き”との戦いが始まりますから、飲食であればフレーバーを増やすなどして、既存顧客の購入頻度を維持させようとするブランドは多いはず、と小野教授は話します。

 “好き”も続けば”飽きる”とは、インパクトのある表現だと筆者は感じました。”好きで居続けてもらう”ためには、手を替え品を替え、気持ちを維持することが必要なのでしょう。

 飽きるほど反復購入するということは、ザイアンス効果(同じ人や物に接する回数が増えるほど、その対象に対して好印象を持つようになる効果)か、現状維持バイアス(現状を変えて「何かを失うかもしれない」という不安が「何かを得られるかもしれない」という期待を上回る心理状態)も影響しているでしょう。

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