マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #07

誰しもが避けられない「老い」を、マーケティングはどう捉えるべきか

 

年齢とともに変わる認知能力


 次の図は、5万人以上の大規模なサンプルにもとづいた研究結果(脚注1・記事末参照)で、ある課題に対する記憶のスコアが年齢ごとに集計されています。
 

 横軸が年齢で、縦軸が課題のスコアです。ここでの課題とは、画面上に提示された複数の物体の色と形を覚えて、すぐ後に思い出して答えるというシンプルなものです。色と形、それらの組み合わせという3つに分けて、それぞれの平均値が示されています。

 いかがでしょうか。平均すると、この課題のパフォーマンスは10代の頃に上昇し続けて、20歳前後でピークになり、その後は基本的に落ちる一方です。論文の記述によると、42-55歳のスコアは8-9歳と同様で、56歳以降はそれらより統計的に有意に低かったということです。

 他の類似研究でも傾向はほぼ同じで、この手の記憶課題のピークは20代前半くらいになることが多いです。そのほかにも反応時間や情報処理速度、あるいは複雑な推論の課題などは、20代から下降し、50代後半からさらにその傾向が顕著になります。

 さらに次の図では、先ほどとは別のグループの研究(脚注2・記事末参照)で、4つの異なる課題のスコアが20-80歳程度までのグループごとにプロットされています。
 

 4つの課題のうち3つ(処理速度、推論、記憶)は、先ほどお話しした通りの傾向を示しています。これらは総称して「流動性知能」と呼ばれ、新しい場面に出くわしたときに柔軟に素早く問題解決し、適応するための重要な要素になります。

 私は、もう中年の“おっさん真っ盛り”ですから、こんな話ばかりだとがっかりしてきます。たしかに、神経衰弱のようなゲームでは子どもに負けるし、なんだか新しいチャレンジも厳しく感じる気がします。

 とはいえ、もちろん悲観することばかりでもありません。上の図の中にひとつ、とても希望の持てるものがあります。同義語(Synonym)を答える語彙のテストの結果です。

 この同義語のテストに代表される能力は、一般に「結晶性知能」と呼ばれます。習得してきた語彙や知識、さらにはそれに基づく理解力や演繹的推論などが含まれます。こちらは20代以降も、むしろ上昇を続け、50代以降も比較的安定しています。「努力の結晶」という言い回しと同様、文字通り、蓄積されていくのですね。 

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