マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #07

誰しもが避けられない「老い」を、マーケティングはどう捉えるべきか

 

ターゲット層の認知的特性をうまく活かそう


 これまで紹介してきたように、同じ商品を見たり使ったり、あるいは同じ広告に出くわしたりした際でも、シニア層(たとえば60代以降)と若年層では、反応が違いそうです。結果的に同じような行動に見えても、そこに至る過程が違うということもあり得ます。

 そこで、それらの背景の理解を深めて戦略・施策を工夫することで、自分たちのターゲットに、より効果的にアプローチする助けになるかもしれません。

 たとえば、シニア層では、限られた情報処理容量と処理速度を補うため、感情(特にポジティブなもの)に基づく直感的な意思決定の比重がより一層大きくなると言われています(脚注3・記事末参照)。

 また、視力や聴力も衰えて、輪郭のはっきりしないものやコントラストが弱いものは、区別しにくくなりますし、細かい表示や音の違いも処理しにくくなります。つまり、若年層に対するものよりも、より一層シンプルで明瞭に、かつ感情に訴えかけるコミュニケーションを心掛けるべきしょう。



 さらに、どうしても新しいものへの対処が苦手になってくるため、あまり同時に新奇な要素を詰め込みすぎるのは厳しくなります。冒頭のコホート的分析から出てきた親しみや馴染みのある場面設定、キャラクター、セレブリティなどと結びつけて、うまく消費者自身に関連付けて(relevancy)いきたいです。

 長い間、高評価が続いてきたソフトバンクの「白戸家」やauの「三太郎」シリーズなどは、これらをうまく活用して幅広い世代に受け入れられた例と考えられそうです。

 もちろん、対象の年齢層が得意な結晶性知能のほうに重きを置くのもひとつの手ですね。優れたキャッチコピーは若年層と同様か、むしろそれ以上に効果を発揮しそうですし、川柳や俳句などを取り入れたキャンペーンも年配者に人気が高いことが多いです。
 

まとめ


 今回はシニア層に焦点を当てて検討してきましたが、基本的な考え方は他の年齢層でも同じでしょう。また、ジェンダーや市場など、年齢以外の要素についても、この概念自体は流用できると考えています。つまり、コホートの質的・量的な分析に加えて、生物学的な特徴も考慮に入れることで、より精度を高めていけるのです。

 ただし、「女性脳」や「母親脳」、あるいは脳の人種差などは、まだまだ科学的には不明な点が多い一方、似非科学的な議論や科学よりイデオロギーが影響しすぎるものも多いです。

 そうした場合、できる限り情報のソースを確認して、高度な情報リテラシー、科学リテラシーをもつことが極めて重要になります。もとより、倫理的に繊細な問題をはらむことでもありますし、取り扱いには十分に配慮していきたいと思います。

 <参考>
 脚注1: Brockmole JR, Logie RH (2013) Age-related change in visual working memory: a study of 55,753 participants aged 8–75. Frontiers in Psychology, 29.

 脚注2: Salthouse TA (2004) What and when of cognitive aging. Current Directions in Psychological Science, 13: 140-143.

 脚注3: Scheibe S, Carstensen LL (2010) Emotional aging: recent findings and future trends. Journal of Gerontology: Psychological Sciences, 65B: 135-144.
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