行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #08

歪んだ信念に、どう向き合うか。米連邦議事堂襲撃を行動経済学の視点で考える

 

「強固な信念」は、どのようにつくられるのか?


 歪んだ信念は、どうやって肥大化していくでしょうか。ヒントは「信念バイアス」と「サンプルサイズに対する鈍感さ」にあります。

 誰しもが仮説や想いなどの考えを持っています。それ自体が正しかろうと間違っていようと構いませんし、人から言われる筋合いもありません。ただし、論理的に法律的に道徳的に間違っているならば、時間の経過と共に正しい道へ向かった方が良いとは考えます。もっとも、道徳的に何が正しいかは場所と時間によって違いますから、ここでは正しさの定義は脇に置いておきます。

 それなのに、自分の仮説や想いを検証する際、論理的に考えれば間違っているのに、自分の仮説や想いに合致する主張のみを信じる場合があります。これを「信念バイアス」といって、耳さわりの良い言葉を鵜呑みにしてしまう傾向を指します。つまり、正しいかどうかを調べるよりも、自分の仮説や想いは正しくてそれを裏付ける人・情報を探しているのです。

 さらに、大勢の人に聞けば良いものの、少数の声を聞いただけで満足してしまい、自分は間違っていないと確信する場合があります。これを「サンプルサイズに対する鈍感さ」といいます。

 例えば、コイントスのゲームを行い、3回連続で表が出たとします。珍しいように見えますが、実現する可能性は約13%もあります。したがって「表しか出ないコイン」と決めつけるのは危険です。何度も、何度も繰り返していけば、コインに特殊な細工をしていない限り、表が出る可能性は約50%に収束するでしょう。これを確率論や統計学の世界で「大数の法則」と言います。

 しかし、自分の仮説や想いは正しく、それを裏付ける人・情報ばかり探している人たちは3人に聞いて3人とも自分を支持してくれれば、「これが正解なんだ」「私は間違っていない」と考えて、その信念はよりいっそう強固になります。



 こういう状態になると、どれだけ自社の想いを主張しても、強い信念を持って罵詈雑言を浴びせる人たちは、ほぼ間違いなく耳を傾けてくれません。「これだけ言っても話を聞かない」「まったく自分たちの考えが通用しない」と感じるのも当たり前です。すでに(少数ながら)自分の信念を支持する人たちがいるのですから。

 だからと言って、企業に「対話を止めろ」と言っているのではありません。理解してもらうために対話が必要なのではなく、世の中には様々な意見があることを知ってもらうために対話が必要なのです。

 自分たちの信じる意見の海に溺れさせずサンプルサイズを増やし、自分たちは間違っていないという確信の根幹に、自分自身で疑ってもらうことが大事だと考えます。

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