マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #08

人の「視覚情報処理」 の特徴をマーケティングで効果的に活用する方法

 

個別の対象物の認識


 先ほどは大まかなシーン全体(ジスト)の認識の話をしましたが、その中に含まれる個々の要素についてはどうでしょうか。

 なんとなく予想できると思いますが、シーンのジストが非常に高速に認識できる一方で、シーンの中の特定の物体や細部の認識には時間もかかるし、そもそも気づくことさえ難しいことも多いです。
 

 たとえば、この写真は前ページで見たものと似ていますが、一カ所だけ微妙に異なっています(Sareen et al. 2016)。気がつきましたか? 

 前のページを見返さずに違いに気づく人は、少ないのではないでしょうか。それどころか、何回も繰り返し見直しても、なかなか気がつかないことも多いです(脚注1・記事末参照)。

 このような間違い探しゲームに手間どるような現象は、「変化の見落とし(change blindness)」としてよく知られています。ご存知の方も多いと思いますが、Web上にもたくさんの例が出ていますので、興味があればご覧ください(脚注2・記事末参照)。

 いずれにしても、ジストの認識があれほど素早くできるのとは大違いです。個別の対象物の認識に関わる処理は、ジストの認識の処理とは異なるのですね。

 ただし、それらは全く無関係というわけではありません。シーンの認識は、ある物体が存在する状況を示す文脈情報となり、物体の認識に影響を及ぼします。
 

 この図は、ある古典的な研究(Palmer 1975)で使われた素材です。参加者に左側の線画(キッチン)を見せた後、右側のような様々な物体を一瞬(数十ミリ秒)だけ見せて、すぐに名称を答えてもらう実験をしたところ、(a)(食パン)のように文脈に合うもののほうが、形は似ていても文脈に合わない(b)(郵便受け)よりも高い正答率が得られました。

 この実験では、文脈の情報がターゲットの物体よりも先に提示されていましたが、もちろん同時に存在していても同様の影響がみられます。全体的な文脈(ジスト)に合わなければ、その物体が何かを判断するのに余計な時間がかかるし、判断の正確さも損なわれます(Biederman et al. 1974; Davenport & Potter 2004)。

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