マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #08
人の「視覚情報処理」 の特徴をマーケティングで効果的に活用する方法
2021/02/10
まとめ:マーケティング活動へのヒント
スマートフォンやSNSなどの普及にともなって、それぞれの消費者が曝される(利用できる)情報の量は近年爆発的に増加しています。近い将来、5Gが本格的に広まると、その傾向はさらに増していくでしょう。
しかし、人々が使える時間は有限であり、情報量に比例して増えるということはありません。おのずと、情報の瞬時の処理、取捨選択が増していくことになるでしょう。
これに対してマーケターができることとして、ここまで見てきたような視覚認識の観点からは、どのようなヒントが得られるでしょうか。
まず、「受け身で見ただけのものはほぼ忘れる」という最初の実験データは心に留めておきたいです。すごい勢いで情報が過ぎ去る状況では、残念ながら、顧客が自分自身で見たいものしか見えないのが実情です。ですので、気がついて認識してもらうためには、顧客自らに能動的にその情報を探しに来てもらうことが理想でしょう。
とはいえ、それはそんなに簡単なことではないのも事実です。その場合には、少なくとも文脈に合致しているほうがうまくいく可能性は高いでしょう。
そのためにできることは、商材やカテゴリー、あるいは広告主側かプラットフォーマー側かによって全く異なると思います。また、広告だけでなく、インストアの設計やディスプレイでも文脈は、大いに重視すべきポイントだと思います。
それらを押さえたうえで、次に考えられるのは、顧客自身の日ごろの興味・関心に従うことでしょう。それによって、意識して探していなくても目にとまる確率は高まります(Gilson et al 1982)。個別の顧客に合わせてパーソナライズできない状況では、多くの対象者が興味を持つであろう時事的な問題や流行っているものを取り入れることが、その目的に合致しそうです。
同様に、生物として本能的に気がつきやすいものも、もちろん考慮すべきだと思います。たとえば、静止画よりも動いているもののほうが有効でしょう。また、感情を伴うものや、顔の持つ力は極めて大きいです。特に視線が消費者のほうを向いていると、さらに効果は高くなります(Alpers et al. 2005)。
そういえば個人的には最近、SNSを高速でスクロールしていると、UQモバイルの三姉妹がこちらに向かって決めポーズを作る動画が印象に残っている気がします。
そして、ここでも結局のところブランドを育てることが極めて大切なはずです。ロゴやアイコニックな手がかり(色や象徴的な形、セレブリティやキャラクターなど)によって、そのブランドが伝えたいメッセージを一目でジストのように認識してもらえるのが理想的ではないでしょうか。
まだまだお話ししたいこと、議論したいことはたくさんあるのですが、今回はこの辺で。また需要がありそうでしたら、深掘りしていきたいと思います。
<脚注>
脚注1:写真は以下のサイトのデータベースから転載。ちなみに、2枚の写真の違いは、左上の壁の絵の有無。
https://search.bwh.harvard.edu/new/CBDatabase.html
脚注2:たとえば以下のYouTube動画。(英語ですが、英語力はほとんど必要ない)
https://www.youtube.com/watch?v=ubNF9QNEQLA
<引用文献>
Alpers GW, Ruhleder M, Walz N, Muhlberger A, Pauli P. (2005). Binocular rivalry between emotional and neutral stimuli: A validation using fear conditioning and EEG. International Journal of Psychophysiology, 57, 25–32.
Davenport JL, Potter MC (2004) Scene consistency in object and background perception. Psychological Science, 15: 559-564.
Gilson M, Brown EC, Daves WF (1982). Sexual orientation as measured by perceptual dominance in binocular-rivalry. Personality and SocialPsychology Bulletin, 8, 494–500.
Palmer SE (1975) The effects of contextual scenes on the identification of objects. Memory & Cognition, 3: 519-526.
Potter MC (1976) Short-term conceptual memory for pictures. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 2: 509-522.
Sareen P, Ehinger KA, Wolfe JM (2016) CB database: A change blindness database for objects in natural indoor scenes. Behavior Research Methods, 48: 1343-1348.
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