行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #11
3回目の「緊急事態宣言」の効果が、薄くなってしまった理由
2021/05/11
「数字を見る感覚」が麻痺している
加えて、本連載で何度か紹介している「参照点」が作動して、「この程度の感染者数で済んでいるから大丈夫…」と考えている節すらあると筆者は考えています。
日本における日毎の新規感染者数推移を見てみましょう。第1波が訪れた20年4月、第2波が訪れた20年7月~8月、第3波が訪れた20年11月~21年1月、そして第4波が訪れた21年4月~に目が向きますが、実際に注目すべきは波と波の間です。
第2波と第3波の間は第1波の平均より高く、第3波と第4波の間は第2波の平均より高いのです。
これは、それぞれ「ここまで来たらヤバい」と感じる参照点が、波を超える毎に高まっているからだと考えます。もし第1波の真っ只中にいる人たちが1年後の日本にタイムスリップして、大阪府の新規感染者数1000人という速報に触れたら、目を剥いて「日本終わった」と卒倒するのではないでしょうか。
私たちは、危機を乗り越えるたびに「慣れ」てしまったのです。危機に強くなったのではなく鈍感になってしまったし、どれだけ感染者数が増えても自分は感染していないという状況に「生存バイアス」を強めてしまったとも言えます。
つまり、今起きている「コミュニケーションの失敗」は、2階建ての「失敗」によって成り立っていると言って良いでしょう。1階は「私は感染しないだろうというバイアスを抱かせてしまったコミュニケーションの失敗」、2階は「政府や自治体の羊頭狗肉ぶりに不信感を抱かせてしまったコミュニケーションの失敗」です。
政治家や行政は1階に、マスコミや言論人は2階ばかり注目しているようですが、両者はほつれた糸のように密接に絡み合っています。そろそろ1階部分の失敗を国民のせいにして「国民が正しく理解しない」といった政治家の失言も出てくるでしょう。