マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #11

最新研究から読み解く:「人の感情」は、どのようにつくられるのか

 

感情の心理学的構成主義


 とはいえ、私たちは「悲しい」や「怖い」などの感情を実際に感じていますし、それを共有もできます。どこにも対応する反応がないのにもかかわらず。いったい「悲しみ」や「恐怖」とは、何なのでしょうか。

 この疑問に対して、最近、心理学的構成主義という見方で感情をとらえようとする流れが出てきています(脚注1・記事末参照)。どういう理論か、順を追ってみていきましょう。

 次の図は、MITのエーデルソン教授によって発表された大変有名な錯視図形です。タイルAとBの色を比べると、明らかに違って見えます。しかし、驚くべきことに、実際にはまったく同じ明るさなんですよね。



 AとB以外の部分をすべて消すと、下の通り全く同じであることがわかります。元の図では、光と影の具合や、チェッカーボードの事前知識などをもとに、脳が勝手に明るさを調節していたようです。
 

 このように、見たり聞いたり触れたりして得られる私たちの知覚というのは、現実世界のコピーではなくて人間の側が作り上げたものなのです。

 ここまでは知覚の例でしたが、それ以外にも私たちが経験することや考えること、例えば、心やマインドと呼んでいるものは、すべて人間の側でつくり上げるものだと考えることができます。その考えを核とする主張が、「構成主義」と呼ばれます。

 感情を構成主義の発想で捉えなおすと、感情の経験や知覚も、タイルの色と同様に状況に応じてその都度、その場でつくり出しているのだとされます。

 そこでは、「幸福」や「怒り」などの感情は、生まれ持ったでき合いのカテゴリーではなく、明るさの明暗や色の白黒と同様に、経験・学習によって構築された「概念」なのです。それぞれの状況において、心拍数や各臓器の状態などの身体内部の変化(内受容感覚)が、たとえば「幸福」という概念と結びつくときに、幸福という感情がつくり出されると想定されています。

 ですから、普遍的でもなんでもなく、同じ人が感じる幸福でも、起こっている脳活動も生理的活動も、その都度、実際には全部違っているし、あなたが思う幸福と私の幸福はぜんぜん別のものかもしれません。なので、普遍的な基本感情の指標は、身体や脳には存在しようがないというわけです。

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