マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #11

最新研究から読み解く:「人の感情」は、どのようにつくられるのか

 

マーケティングへの示唆


 そんな、ややこしいことは実務にはあまり関係ないと思われるかもしれませんが、私は大いに関係すると思っています。構成主義的な見方が正しいとすると、感情は刺激に反応して勝手に引き起こされるものではなく、むしろ消費者自身によってつくられるのです。

 ですから、感情を構築できる材料がないと、消費者は感情をつくり出せません。文脈(コンテクスト)がとても大事になります。極端な例では、CMの最後になんの脈絡もなくあいまいな表情の顔と宙に浮いたパッケージが並べて提示されていた事例がありました。人間の顔があればポジティブな感情になるはずという意図だったようですが、これは先ほどの錯視で、AとBの明暗を示したいのに、周りの情報を消してしまったようなものだと思います。

 せめて「友人や家族と談笑している」や、さらに「最初から明確な場面の設定が続いている」、そして「(できれば)そこにその製品とのインタラクションがある」など、消費者が感情を構成するのを助ける文脈(コンテクスト)を出したほうが良いとアドバイスしました(ただし、情報の増やしすぎは絶対にいけませんが)。

 また、感情に結び付けるためには心臓の鼓動や各臓器の状態など身体内部の変化に関する感覚が重要ですから、理想的にはやはり身体を動かして体験できるほうが、顕在的な感情の経験に結びつきやすいでしょう。現実には制約があっても、ARやVRなど、今後は可能性が広がっていくと思いますので、留意しておきたいです。

 最後に、ここで主に扱った「感情」は、言語によって概念化されたものでした。これは、前回のコラムでいうと、「欲しい」(Wanting)というよりは「好き」(Liking)のほうに、より関連が深いものと思います。消費者・顧客に的確に感情をつくり出してもらい、長く愛されるブランドを構築していきたいものです。

 <脚注>
 1.    リサ・フェルドマン・バレット(著)、 高橋 洋 (訳) (2019) 『情動はこうしてつくられる 脳の隠れたはたらきと構成主義的情動理論』 紀伊国屋書店
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