行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #13

ワクチンデマの拡散から、我われが得られる教訓

 

デマ全般や陰謀論を信じてしまう「人間らしさ」


 まず、人がワクチンデマに限らず、デマ全般や陰謀論などを信じてしまう、あるいは騙されてしまうことに、私は強烈な「人間っぽさ」を感じます。そもそも「私は1回もデマを信じたことがないし、騙されたこともない!」と言える人はどのぐらいいるのでしょうか。そんな人にこそ、嘘臭さを感じます。

 「誰それが付き合っている」、「誰それが別れた」などのデマだった芸能情報。あるいは競合や事業に関するガセネタ。他にも同じマーケター同士の昇進や降格、転職、リストラに関する噂話。これらを「1度も信じたことがない」とは言わせません。そんな”汚れのない人”なんていないだろ、と私の心の中の悪魔がささやいています。
 
Copyright:macor

 「ワクチンデマだけ特別ではない」と、筆者は考えます。人間誰しも1度以上は足を踏み入れてしまう、ダークサイドと考えれば良いでしょう。

 ちなみに、デマや陰謀論を信じてしまう人たちの心理状況については、自分の仮説や信念を裏付ける情報ばかりに目と耳を傾ける「確証バイアス」。論理的に間違っていても、自分の信念に合致する主張のみ信じる「信念バイアス」。閉鎖的なコミュニティで会話を繰り返すことで特定の信念が増幅・強化されてしまう「エコーチェンバー現象」などで説明ができます。

 そうやって信じている方が「楽」だから、余計にバイアスを深めてしまうという背景もあります。すなわち現実を直視することは、辛いことなのです。

 ただ、これら以外に、ついついダークサイドに陥ってしまう「魔法の言葉」があります。それは「世界はもっとドラマチックなはず」です。

 世界がこんな平凡で凡庸なわけがない。「本当は美味しい思いをしている人がいて、隠れてコソコソやっている人がいて、とにかく何かよく分からんけど、何かあるに違いない」と、妄想をかきたてるのです。想像力こそ人間が他の動物と違う点であると筆者は考えるのですが、まさに想像が妄想に歪んでしまう例です。一方で、それ自体が人間臭さの根元でもあるのですが。

 こうした極端な想定が実際に起こると信じることを「誇張された予想バイアス」と言います。残念ながら、現実はもっと平凡だし、予想は裏切らないのです。

 実際、私の周りの方に新型コロナワクチンについて聞いてみると、「世界を恐怖に陥れた新型コロナなのに、たった1年でワクチンができるわけがない」「超特急でつくったんだから、何かあるに違いない」という“ありもしない何か”を勝手に予想し、ワクチン接種はしばらく控えると言っていました。

 それらは単なる個人のオピニオン(意見)で、何らファクト(事実)はありません。それでも、そうした信念を裏付けるために「証拠」と呼ばれるデマを見つけ出してくるから厄介です。歪みの原点は、もっとドラマチックだという勝手な期待にあるのではないか…というのが筆者の考えです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録