マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #13

「独創的なアイデア」は、どこから・どう浮かんでくるのか

 

顕在と潜在の間を行き来する


 説明のため、下の簡易的な図をご覧ください。特に今は左側に注目しましょう。



 普段、私たちが何かを考える時には、いったん意識上にワーキングメモリと呼ばれる形で情報を置いて、そこで処理します。しかし、これまでのコラムでも何度も指摘してきた通り、この領域の容量ははとても小さいのです。しかも、小さいだけでなく、使うと疲れてしまいます。そこで、なるべく使いたくないけど、通常のやり方で何かを考えようとすると使わざるを得ないというものです。

 一方で、その下にはご存知の通り、広大な潜在認知や長期記憶のスペースがあり、膨大な情報が潜んでいます。私が上で並べたウンチクも、まさにそこに保存されていたのでしょう。

 イヤーワームが起こる状況というのは、ぼーっとしているにせよ、ストレス下にせよ、どちらかというとワーキングメモリが解放されて空きが生まれたような状況です。そこに下から、フレーズが流入してくるようなイメージを私は考えています。

 上述の皮肉過程理論では、そのことを考えないようにしようとすると、まず何を考えないようにするか把握しないといけないので、結局ワーキングメモリがその内容(ここではリピートされているフレーズ)に占有されて、頭にこびりついたような感じになるという仮説です。

 なので、逆に他のタスクでワーキングメモリが一杯になると、そのフレーズは潜在意識のほうへ押しやられていくのでしょう。

 イヤーワームを例にすると、少しネガティブな印象になってしまうかもしれないのですが、意図としては、独創的なアイデアが浮かぶ過程も似たようなことが起こっているということです。

 つまり、アイデアを上手に見つけられる人というのは、膨大な潜在認知の資産にアプローチするのが上手なのだろうということです。

 こう仮定すると、まじめに考えすぎるだけでは、なかなかうまくいかないということが納得できます。よくあるWeb記事などでは、半ば自己啓発のような感じで「消費者のことを考えに考え抜いたその先にインサイトがあるのです!ドヤッ」と述べられていたりしますが、本当にそうなのでしょうか。

 一生懸命に一途にがんばって考えているマーケターほど、むしろ意識上のところでスタックしてしまっているような気がするのですが・・・。長くなったので、いったんまとめましょう。  

 

まとめと次回の展望


 独創的なアイデアは、天から降ってくるものでも地下から湧いてくるものでもなく、すでに自分の脳の中(の潜在認知のところ)にあったのでしょう。しかも、自分だけでなく、他者の多くにもそのパズルのピース自体は知らず知らずのうちに共有されているでしょう。そうでないと、世に出ても「コロンブスの卵」という印象を受けないでしょうから。

 しかし、どうすれば、その潜在認知をうまく使えるようになるのでしょうか。もちろん、私自身も明確な答えを持っているわけではないのですが、ヒントはワーキングメモリの解放の仕方、言語による思考からうまく離れることにありそうだと思っています。

 ここでのポイントは、顕在意識と潜在意識のところに重なりを持たせてあるところです(図の斜線のところ)。




 多くの場合、意識と無意識のように2つにバッサリ分けられていると思いますが、その中間くらいがなんとなく興味深い気がするのです。

 イヤーワームも、スッキリ消えるのではなく、なんとなくその辺に“気づくような、気づかないような”微妙な感じでいる状態はないですか?

 あるいは、たとえば名前を知っているような気がする(FOW: Feeling of Knowing)のに、その名前を思い出せないや、もうちょっとで思い出せそうで舌の先まで出かかっているのに…という状態(TOT: Tip of the Tongue phenomenon)など。

 さらに、先ほどの図では、右側に他者(あるいは社会)との関係も匂わせています。特に消費者インサイトを考える際には、社会との関係が重要なはずです。

 これらをヒントに、来月にこのテーマをもう少し広げて、かつ深掘りしていきたいと思います。
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