行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #14

「東京五輪に反対した奴らは楽しむな!」私たちの身近に潜む“ゼロサム思考”の危険性

   

タブロイド思考の危険さ

   
 社会と人間の関係は、思っている以上に複雑です。Aという場面ならXが起きるけど、Bという場面ならYが起こる。因果関係は意外と複雑です。また、因果関係の事後検証は思っている以上に難しく、手間がかかり、時間も要します。

 以前に日経ビジネス電子版で隔週連載をさせて頂いた頃、少子化問題や労働生産性、貧困問題、食品ロスなど政治経済の話題を通じて「本質的な複雑さ」を問題提起し、原因はコレと言い切れない難しさを訴え続けました。

 しかし、賃金が安いのは大企業が出し渋っているからだ、貧困問題は最低賃金を上げれば解決するなどの「物事の簡潔化」する声に、私は精神的に負けました。「そうなんだけど、それだけじゃない」という声は、意外と届かないものです。ちなみに、複雑なものごとを単純化、類型化して判断する思考を「タブロイド思考」と言います。

 例えば、ワイドショーの街角インタビューで「オリンピックを開催して良いなら、私だって出歩いたって良い」と回答している方がおられました。言いたいことは分かるのですが、新型コロナウイルスの感染対策ルールなどをまとめた「プレーブック」では、選手は原則として毎日、PCR検査を受けることが定められています。それと同程度の感染対策をしているなら話は別です。話を単純化し過ぎだと思いました。
     
Chaay_Tee /Shutterstock.com
    
 他にも、オリンピックの開催が、国民の気を緩ませて感染を拡大させているという批判も同様です。影響が無かったとは言えないだろうけど、だからといって100%そうだとも言えません。同じく物事を単純化した発言だと思いました。

 0か100か、そのどちらかに振り切った方が「分からないこと」が分かったような気分になるので気分は良いかもしれません。SNS上でも「言い切っている」人がいて(多分に私もそうなのですが)、そうした方が理解が得られて楽だろうな…と思います。

 そう言えば、マーケティング業界でも数年前からメディアに登場されているP&Gマフィアと呼ばれる方々や、刊行されている書籍について、最近は「明日から使える話ではない」と”手の平返し”の意見をする人たちがいるようです。いや、それ「最初から分かってたやん!」と思わずツッコミを入れたくなります。

 タブロイド思考が危険なのは、分かったふりをして、何ひとつ問題が解決しないか、あるいは悪化してしまう点にあります。「明日から使える話ではない」なんて、最初から分かっていた話であり、だからこそ「他社が真似できない差分」が生まれたのです。

 AだけどもBでもある、というスタンスは「中途半端」に見えるかもしれませんが、バランス感覚とはそういうものだと思います。「空気」に流されず、熟慮し、顧客のために良い商品・サービスを提供する。大半のマーケターがそうした努力を積み重ねておられる中で、「ゼロサム思考」「タブロイド思考」にかかり、「それって意味あります?」「これでいいんじゃないですか」「Aで十分」「Bしかない」と易きに流れたくはないな…と、筆者は東京オリンピックから考えました。
他の連載記事:
行動経済学で理解するマーケティング最新事情 の記事一覧

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録