マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #14

消費者インサイトにたどり着くには、粘り強い「人間味のある努力」がいる

 

自分の中にため込む努力と、それにアクセスする努力


 自分の潜在意識を使って、消費者の潜在意識を探るには、少なくとも2つのことが必要になるはずです。ひとつは、まず自身の長期記憶の中に、知らず知らずに情報を大量にため込むというプロセス。そして、もうひとつは、そこにアクセスして答えを導くというプロセスです。

 ため込むほうに関していうと、商品のコンセプトやスペック、開発経緯などの知識を詰め込むだけでは、あまり貢献できませんし、数字を追うことでも不十分でしょう。消費者自身が気づいていない、潜在意識を知ろうとするわけですから…。

 そこで、たとえば、商品やサービスを徹底的に経験し尽くすということは、ひとつの方法としてありそうです。それが直接できない場合でも、代わりになるものや近いもので代用できます。さらに、それさえできない場合には、シミュレーションになるはずですが、それは常人には考えられない徹底した集中力が要求されるでしょう。

 スポーツでも芸術でも、その他どんなことでも、エキスパートには積み上げている潜在的な記憶があり、それによってはじめて一流のパフォーマンスが成立します。一つひとつ考えながら思い付きで、動くわけではありません。

 そうしたエキスパートと、根本的なメカニズムは似ているのだと思うのです。消費者の潜在意識に関連するはずの情報を、潜在的に自分の記憶に刷り込んでいく。もちろん、生い立ちを含めて、ずっと積み重ねてきた潜在記憶も大いに使われますが、それに加えて今関わっている案件に特化して、そういった努力を徹底するのです。

 もちろん、これは容易いことではないですよね。消費者が抱える深刻な問題にアプローチしようとすると、その深刻な問題をマーケター自身でも背負い込んでしまい、精神的に参ってしまうこともあるかもしれません。商材によっては「おいしいものが食べられて羨ましい」や「旅行ができていいね」と言う人もいますが、徹底して追究しようとすると、そんな簡単なことではないですよね。

 この蓄積があって初めて、「消費者インサイト」、つまり消費者の潜在意識の中の情報がマーケターの中にふと「浮かんでくる」というようなことが起こるのではないでしょうか。この浮かんでくるという点については、前回のコラムもご参照ください。
 

まとめと次回の展望


 一発屋ではなく、継続して「消費者インサイト」にたどり着けるのは、おそらくもともと秀でた人たちが、さらにこのような身を削る努力をしているからだと私は考えています。それに対して、何か自分の考えを述べるのは、恐縮の極みです。

 しかし、ここまで考察してきて、中途半端に終わるのもまたよろしくないと思うので、もう少し先に議論を進めたいと思います。

 先ほどの話から、消費者自身も気づかないまま彼らの間でひそかに共有されている「インサイト」に関わる情報を、自分の 潜在記憶にため込む努力と、そこにアクセスして再構成する努力の2点が鍵になりそうです。

 そのうち、前者に関しては少しだけ例を挙げましたが、まだまだ理解が不十分だと思いますし、後者にいたっては、ほとんど何も中身を述べていません。

 次回は、この2点を中心に話を進める予定です。前回から言いかけて言えずじまいの、図の中の円の重なりの部分(青い斜線のところ)の役割や、ワーキングメモリや言語のメリット・デメリットなどを手掛かりにして、「消費者インサイト」が明らかになる過程を、より具体的に考えていきたいと思います。
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