行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #15

24時間テレビから考えた、SDGsの「賛同者」を増やす方法

前回の記事:
「東京五輪に反対した奴らは楽しむな!」私たちの身近に潜む“ゼロサム思考”の危険性
   

今年も行われた「24時間テレビ」の是非

   
 真夏の風物詩と言える花火、海水浴、盆踊りがコロナ禍もあって軒並み中止や自主規制に追いやられる中、日本テレビ系列「24時間テレビ」が無観客ながら今年も開催され、私もついついソファで横になって見続けてしまいました。それもまた毎年の定番であり、我が家の風物詩です。

 1978年に「愛は地球を救う」をキャッチフレーズとして誕生した番組に対して、賛否が分かれていることは、皆さんご存知のはずです。「寄付行為への賛同」「挑戦を応援したい」といった声がある一方で、「感動の押し売り」「単なる偽善」といった声も聞きます。

 非常に興味深いのは、賛成派はチャリティー活動そのものを応援しているのに対して、反対派はチャリティー活動の「進め方」や「やり方」を批判している点です。すなわち、きちんと説明すれば反対派も宗旨替えして賛同してくれる可能性がある、ということです。

 「24時間テレビ」は、一見する限りは「良いこと」をしているのに、なぜ批判者がいるのでしょうか。どのような説得がなされれば、賛同者は増えるでしょうか。その理屈を理解することが、例えば、SDGs活動が浸透する鍵だと筆者は考えます。
   

     

善意を信じられない理由

   
 100%の善意を信じられない、受け止めきれない人は一定層います。あるいは、「何か裏があるんじゃないか」、「別の魂胆があるんじゃないか」と深読みしてしまう人も一定層います。主に、過去の経験や友人からの伝聞、あるいは創作物の影響で「人や物事には裏表がある」と考えた影響だと筆者は考えます。

 例えば、友人から酷い裏切りにあったとして、その経験を帰納法で抽象化させ「人は最後には裏切る、だから私も裏切って良い」という教訓を得る人もいるでしょう。本来ならば、そこまで一般化しなくていい体験も、信頼できる仲間から適切なフィードバックがなければ、人間不信とまではいかなくても「私がそうであるように、人や物事には裏表がある」という価値観を持つに至る可能性は十分にありえます。

 その他にも、例えば、全く同じ速度で走っている2台の車があったとして、うち1台が警察官に見つかり違反切符を切られ、もう1台は見過ごされたとしましょう。おそらく周囲の人は、運転手に対して「日頃の行いが良かったから(悪かったから)」と慰めるのではないでしょうか。しかし実際には、これは単なる偶然であり、いわば運の要素が非常に強いのです。

 単なる運の良し悪しを、それ以外に紐付けて判断するバイアスを「モラルラック(道徳的運)」と言います。この話も、捕まった/捕まらなかったに”真の理由"という「裏表」の類です。想像力が豊かとも言えますし、悪く言うと「妄想」です。

 「何か裏表があるのだろう、私がそうであるように」「何か”真”の理由があるのだろう、世の中はそういうものだもの」。そうしたメガネをかけて24時間テレビを見ると、多くの矛盾が目に付くのでしょう。善意に対して粗を探そうとするほど、その人の気持ちになるのではなく、いつの間にか私だったらどうするかと考えがすり替わるからです。心理学の世界で言う「投影」が入り混じっているのです。

 例えば、自分がある人を嫌っていると、確認したわけでも無いのに、その人も自分を嫌っているように感じてしまう。それは自分の感情を「投影」した結果です。自分の視点だけで物事を見てしまうと、そこにバイアスが生じます。

 それと同じで「私がそうであるように裏がある」と思いながら見れば、投影が入り、いつの間にか対象ではなく鏡に映る自分を見るようになり、何かしらの「裏」を勝手に見つけ出すのです。

 恐ろしいのは、相手に取材や裏取りをしているわけではない点です。24時間テレビの関係者が果たして「善意の裏があります」と言ったでしょうか、あるいは何らかの証拠があったでしょうか。昨今は陰謀論が世間を騒がせていますが、その根底には歪んだ心理の「投影」が影響していると筆者は考えています。

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