マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #15

消費者インサイトに近づく道。顧客の体験を「自分の潜在意識」に蓄積する

                

市場や商材ではなく消費者のエキスパートになる

            
 そうは言っても、体験を暗黙知化するなんて、いったいどうすればいいのでしょうか。個別のやり方は、マーケターごとにそれぞれ違うのでしょうが、経験的には大きく2パターンにカテゴライズされるように思います。

 ひとつは、とにかく自分でも商品やサービスをひたすら体験するというタイプ。これの亜種で、商材の特性上どうしても物理的に実体験が無理な場合に、脳内でひたすらシミュレーションをし続けるというパターンもあるでしょう。

 2つ目のタイプは、投影法やデプスインタビューなど定性調査を通じて消費者の心理に迫ろうとするもの。これも、消費者が言っていることをまとめて何かを発見しようという態度よりも、消費者の体験を自分でも追体験していこうという意図があるように感じています。
     

          
 どちらの場合でも、他の道のエキスパートと同様に、何度も何度も繰り返し、努力を続けた結果、それが暗黙知として知らず知らずに定着するのだと思います。

 先月のコラムの通り、私にはこの部分がとても人間味のある、大変なプロセスに見えます。ただ、その活動が好きすぎて日常になってしまい、努力・経験していることすら気づいていない人も多いのかもしれませんが。

 いずれにしても肝心なのは、暗黙知化するのは、消費者の体験とそこから出てくる心理や態度そのものであって、消費者を説得するための材料ではないということでしょう。

 当然ながら、やっていることは市場調査ではありませんし、もちろん商品のスペックや特徴から出発するような話でもありません。それはそれで、もちろん大事でしょうけれども、今回の話題のこの段階では、とりあえず、そこからは離れて、消費者の体験を自分のなかの暗黙知にしていきましょう。
       

まとめと次回の展望

        
 というわけで今回は、消費者インサイトに近づく鍵のひとつと考えている情報の蓄積について考察しました。蓄積すべき情報というのは、市場に関することや、カテゴリー・商材のことではなく、顧客の普段の体験そのものであり、しかも、それを言語で体系的に説明するのではなく、潜在認知に暗黙知化しようという考えを述べました。

 そうすることで、今度は、2つ目の鍵である自身の潜在認知へのアプローチによってインサイトを見つける、というところにつなげていけると考えています。来月のこのコラムで、ようやくその段階の考察を行えるところまできました。

 さらにその次に、それまで取り上げきれなかった「こぼれ話」を集めて、そこでこの消費者インサイトに関するシリーズを完結したいと思います。もうしばらくお付き合いくだされば幸いです。
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