マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #16

自分の潜在意識から消費者インサイトを取り出すための方法

前回の記事:
消費者インサイトに近づく道。顧客の体験を「自分の潜在意識」に蓄積する
 

前回までのおさらいと今回のテーマ


 このコラムでは過去3回にわたって、消費者インサイトについて、外堀から徐々に検討を進めてきました。そのなかで前回は、「消費者の体験をマーケター自身の潜在認知に暗黙知化する」というプロセスに注目しました。



 消費者インサイト(上図④)を見つけるために、上図②の自分の潜在認知をうまく使いたいというのが全体の要点です。そして、そのために、まずに②に情報をため込むというプロセスを、議論したわけです。

 今回は、その蓄積した情報がどういう形で貯蔵されているのか考察し、それをうまくとりだす方法を検討していきましょう。
 

さんざん考察・経験したら、いったん忘れる


 最近の私のコラムでは、顧客体験を自分のものにするためには「マーケターによる人間味のある、いい意味での泥臭いプロセス」があると述べてきました。この段階では、ひたすら関連する事柄について考え抜くことも含まれるでしょう。

 ここでは、その次の段階として、いったん「それらから離れて忘れてしまう」というプロセスを提案したいと思います。

 せっかく体験して考え抜いたのに、あえて忘れるというのは、意に反しているように聞こえるかもしれません。しかし、これがマーケター自身の脳がもつ可能性を有効に活用するために、大変重要なのではないかと私は考えています。

 ここでの「忘れる」というのは、情報が脳から無くなってしまうことではありません。「忘れる」と言っても、情報が入ったキャビネットがひっくり返って、記憶がどこかに飛んで行ってしまうわけではないのです。

 これは、「再学習」という現象を考えてみると明らかです。たとえば、第二外国語の単語を覚えるというのは、多くの人にとって難しいことで、数週間したらその単語を見たことがあるかさえ分からない、というような状態もよく起こります。しかし、その見たかどうかさえ分からない単語でも、2回目に学習するときのほうが1回目よりも成績が良くなることがあるのです。

 つまり、意識レベルでは覚えていない、知らない、というようなことでも、脳の中にはしっかり記憶痕跡として残っているということがあるわけです。しかも、このような潜在的な記憶の容量は限りなく大きく、いわば、いくらでも情報を蓄積していける可能性があります。

 意識上で考えながら扱える情報量は極めて少ないので、さんざん考えてきたものについては、この無意識の記憶に任せてはいかがでしょうか。前回までの議論と重なる部分が大きいですが、あえて無理にでも忘れるということを、意味のあるプロセスとして強調したかったのです。

 これで、蓄積した情報から消費者インサイトを取り出すための準備段階というか、燃料の装填ができたような感じです。

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