マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #16

自分の潜在意識から消費者インサイトを取り出すための方法

 

インサイトに「気がつく」ための手がかり


 マーケティングリサーチの助成想起の方法で、写真などを手がかりに応えるような方法をとることがあります。この方法が成立する背景には、人間の記憶システムがネットワーク状に設計されているということが挙げられます。

 つまり人間の記憶システムでは、意味的な関連、色などの物理的特徴、記憶した時の文脈などに従って、様々な要素が、強弱さまざまに複雑につながりながら、脳内にネットワークを形成しているのです。以前には、ブランドに関する記憶ネットワークを取り上げたこともありました。

 そのネットワークの中のある要素が助成想起の手がかりとして提示されると、それをきっかけに結び付きのある要素が文字通り芋づる式に、どんどん浮かびあがり、その中にブランド名が含まれれば、それも想起されるというわけです。

 これを、ここまでの議論に強引につなげると、マーケター自身の中に蓄積された顧客体験の情報のなかに消費者インサイトが潜んでいるとして、それに関連する何らかのヒントに気が付けば、そこから芋づる式にインサイトにたどり着けるだろうという発想です。

 といっても、ヒントは外部から明示的に与えられるわけではありませんし、そんな簡単に気が付くわけでもありません。それでもなお、何かしらうまい方法はないものか。それを知りたいところです。

 ひとつには、記憶ネットワークは、インターネットのように、要素どうしの関係が絶えず変化していますので、今まで気づかなかったようなところにつながりができるように、日々ネットワークを広げていくことは、最低限やっておくべきでしょう。実際、好奇心を持って、アンテナを広く張っているような人がマーケターには多そうです。

 それと同時に、きっかけがあったときに、自分のなかの潜在的なところからの知らせに、きっちりと注意を向けて気が付けること。明確にはわからない微妙な違和感とか、何か気になること、思わぬことを口走ったり、そういったこともヒントの前兆かもしれません。

 多くの人が経験として語っているのは、そういったことは、論理的に考察しているときよりもむしろ、ダンスやランニングなど身体を動かしているときや、音楽や映像その他で情動的な刺激があるとき、アルコールや甘いものを食べまくったりなど、やりたいようにしているときのほうが、ヒントが思いつく傾向があるようです。私自身は、研究の仮説や講演、執筆のストーリーを検討するときなどは、ぬるい温泉でぼーっとするようにしています。

 もちろんこれらは、これまでに何度も述べているとおり、気が遠くなるような情報の蓄積があって初めて成立することでしょうし、そうだとしても最後の議論は、強引な論理や経験談に基づく未熟なものであり、科学的なバックアップはまだまだこれからというのが実情です。

 それでもなお、消費者インサイトへの手がかりとして腑に落ちる部分があれば検討する価値はあると信じていますし、本稿が読者の実務に何らかの参考になれば幸甚です。
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