SNS・消費行動から見えてくるアラサー女子のココロ #33
不景気になるとアイドルが流行る理由を、 悪い円安に頭を悩ますヲタクが考えてみた
2022/05/11
増える、ヲタク向け商品
きっかけは、いつものコンビニ偵察をしていた時だった。アイドルと同じくらいグルメ好きな私は、コンビニグルメも週に1度は店を問わずチェックする。
その中で最近増えてきたのが、定番商品の“高級ライン”の登場だ。「厳選素材を使用した○○」「リッチ○○」「オトナの○○」など、誰もが知っている商品の高級版で、値段も50円や100円ほど高かったりする。実際に一つ買ってみたところ、慣れ親しんだ味とは少し違ったが、美味しかった。そして、少し美味しいお菓子を1回食べると、次も50円を出しても高級なほうを食べたくなっている自分に気づいた。
一方、テレビでは同じ商品(高級版ではないほう)が来月から値上げするとニュースになっていた。値上げ幅は数円だ。だけど街の人は「なんか悲しいですね」とインタビューに答える。次にインタビューに答えた人は「このお菓子が大好きなので、値上げするなら、さらに買ってサポートします!」と言っていた。
「こんなお菓子にもヲタクがいるんだなあ」と思ったが、改めて考えてみると、私もコンビニスイーツが好きだから、高級版のお菓子を買っているのではないかと気づいた。さらに考えてみると、きっと最初にインタビューに答えた人よりも、最後にインタビューに答えた人のほうが、このお菓子をこれまでも買ってきたはずである。言い方を変えれば、最初に数円の値上げを悲しんだ人は、元々そんなに重要な顧客ではないということだ。
お菓子の高級路線化は数年前から始まっていて、最近起こっている安価な商品の高級版が値上げ対策によって生まれたものだとは思っていない。しかし、数円値上げして世間に批判されるよりは、ヲタク向けに少し良い商品を作って数十円でも値上げする方が随分賢い戦略に思えた。
これは元々の商品のヲタクにモノを買ってもらう作戦だが、他領域のヲタクを呼び寄せる方法もある。数年前、鬼滅の刃とのコラボ商品が多数の商品の業績を大きくあげたことが話題になった。BTSとマクドナルドのコラボ(日本では未実施)では、チキンナゲットの売上が2.5倍になったこともあった。
コラボによる売上の底上げは、一時的なドーピング的施策だという見方もあるもののヲタク消費の強さを感じられる。お客さんを変えれば、価格弾力性も変わる。値上げしても買ってくれるのは、金銭的に余裕のある人、あるいはヲタクだと思うのだ。
不景気にアイドルが流行する理由をヲタク目線で考える
現代は、ある程度、安上がりに幸せを手に入れられる時代だ。1000円で動画のサブスクサービスに入れば無限に映像作品で暇つぶしができるし、数百円で良質な洋服も揃ってしまう。食事も500円以内で驚くほど美味しい料理が食べられる。
そうやって、財布の紐をきつく縛りながら生きていく中でも、ついついお金を出してしまうのが「推し」への課金だったりする。必要最低限の暮らしが安く手に入れられる分、趣味にお金を投資しがちなのだ。
だからこそ逆に、あらゆる領域で売上が伸び悩むタイミングで必要とされるのが「ヲタク消費」なのでは、とも思った。
「不景気になるとアイドルが流行する」という法則には、様々な考察がある。「アイドルが様々な理不尽や逆境を乗り越えて明るく歌う姿が人々を元気づける」や、「アイドルは現実逃避させてくれる」などだ。長年アイドルヲタクをやっているからこそ、それらの心情も心から共感できる。
一方で、ヲタクの心情だけではなく、作り手の心情としてヲタクを求めている側面もあるのではないかというのが私の考えだ。ヲタクがアイドルを求めるのではなく、ビジネスがヲタクを求めているのだ。
「不景気になるとアイドルが流行する」というよりも、「不景気になるとビジネスがヲタク向けに偏る」と言ったほうが、納得感があるように思う。
不景気になるとヲタクが狙われるようになるというのは、少し怖い表現かもしれない。しかし、見方を変えれば、ファンがいる層に向けて商品を届けながら(ヲタク視点でいうと、ヲタク向け商品が充実しながら)、人件費を含む原価に余裕をもたせられる素晴らしい施策とも言える。
さらに私としては、市場に狙われることに対して嫌悪感を感じることはない。むしろそれで推しの露出が増えたり、推し関連の商品が増えたりするならば、それはもう万々歳で、心が踊る、というのがヲタクである私の心情なのである。
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