トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #04
行動経済学の観点からみる「価値共創」とは? Preferred Networks富永朋信氏が語るオートノミーの重要性
2023/04/10
ソーシャルメディアの発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による評判形成や企業と顧客の双方向的なコミュニケーションも重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏が、そのヒントをトップマーケターに聞く。
第2回に登場するのは、西友、ドミノピザなどでCMOを務めた経歴を持つ、Preferred Networks SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏。前編では、顧客の「誤読」から始まる価値共創、マーケティングコミュニケーションで成果を出すための話について紹介した。後編では、富永氏が知見を持つ行動経済学の観点から価値共創がいかに有効なのかを詳しく聞いた。
第2回に登場するのは、西友、ドミノピザなどでCMOを務めた経歴を持つ、Preferred Networks SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏。前編では、顧客の「誤読」から始まる価値共創、マーケティングコミュニケーションで成果を出すための話について紹介した。後編では、富永氏が知見を持つ行動経済学の観点から価値共創がいかに有効なのかを詳しく聞いた。
行動経済学の観点でも、価値共創は顧客ロイヤリティに有効
中村 富永さんは、行動経済学にも詳しいと思いますが、行動経済学の観点から「価値共創」の大切さは何だと思いますか。
富永 朋信 氏
富永 今、思いついたことは2つあります。1つ目は価値共創とは、どのような商品・サービスであれ「価値」をつくっていくプロセスでの「お客さんとのエンゲージメント」が重要だということです。実は、人は自分がエンゲージしたことを好きになる傾向があります。たとえば、リーダーシップのセミナーでは、部下に対して「これをやれ」と指示するのではなく、それを思いついてもらうように誘導していくことが大事だと教えられます。それは自ら思いついたアイデアであれば、人は大事にするからです。それと同様に、自分が関与したものにロイヤリティを感じるという性質が人にはあります。
ということは、価値共創というプロセスそのものが、顧客ロイヤリティの源泉になる可能性があるということです。お客さんが関与した商品・サービスが、世に出たときからすでにロイヤリティを得やすい状況にできることが、価値共創のメリットだと思います。
2つ目は、人がその商品・サービスから得られる幸せを増やすということです。自分のことを自分で決められる状態であることを「オートノミー」と言うのですが、私はそれが非常に重要だと考えます。
モノ、つまり「グッズ」の時代に遡ると、お客さんに「誤読の自由」があったとはいえ、すでに世に問われたものを自分で勝手に誤読するしかありませんでした。しかし、今の価値共創のスキームであれば、自分に何があれば幸せか、何が欲しいかと声を上げることができます。最終的には、ひとつの商品・サービスが出来上がっていく過程で、すべてのお客さんの声が何かしら反映される可能性が生まれたわけです。
少し概念的な話になりますが、お客さんは出来上がった商品・サービスから、自分がインプットした声の片鱗を見つけることができるというプロセスが「価値共創」になります。また、商品・サービスに対してそのような形で関与することによりオートノミーは増大されます。つまり、価値共創は、ひとつの商品・サービスから得られる幸せ増やすことにつながるのではないか、というわけです。これは事業者とお客さんの双方の幸福を増幅するので非常に理に適ったことかな、とも思います。
中村 そうですね。今はソーシャルの時代なので、自分の誤読だけではなく、他人がどのような誤読をしたかも見えます。その辺りは、行動経済学あるいはオートノミーに何かしら関連するのでしょうか。
中村 淳一 氏
富永 他人の誤読を知ることができると、ひとつの目的で購入した商品・サービスであっても、異なる角度から使ってみることができます。これは、1度で2度おいしいというような体験です。近年、特に複雑になっている商品・サービスの使い方をどんどん深めていけるということです。自分のオートノミーに従っていることなので、お客さんは非常に気持ちよく、幸福な状態でユーザー体験が深まっていくのではないかと思います。