トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #05
若者は「体験」からの逆算で買う。毎月200人に会って見えた最新消費トレンド【SHIBUYA109 lab.所長 長田麻衣氏】
世界観の先に交流がある
中村 「モノ」の所有ではなく、「コト」が大事なんですね。
長田 そうなんです。モノを購入するモチベーションも、自分が求める体験を成立させるために必要だから買う。今の若者による消費の特徴は、体験からの逆算です。
ファッションで言えば、「109に行く日」と「ディズニーランドに行く日」では、服装がまったく違います。その場所で、どのような写真や動画を撮りたいかというイメージが先にあって、その世界観を成立させるためのアイテムを選んでいくのです。
中村 逆算した消費も興味深いですね。そこに世界観があるんですね。
長田 はい、世界観はすごく重要なキーワードです。たとえば、ガーリーな雰囲気を持つ人は、その世界観を成立させるために必要なヘッドセットや背景などにこだわります。それに合わせて、服の色も水色ではなく、白かピンクを合わせるなど消費の仕方が変わるんです。
中村 少し違った見方をすると、デザイナーやクリエイターなど世界観に強いこだわりがある人がしそうなことですよね。
長田 その通りです。若者のコミュニケーションのベースは、やはり画像や動画になっています。このスキルを109ラボでは「ビジュアルコミュニケーション」と呼んでおり、今の若者はすごく長けていると思います。
たとえば、「エモい」や「チルい」など若者が使っているワードを大人向けに訳すと「エモーショナルでセンシティブな気持ち」になりますが、実は言語化しきれていないと思います。でも、若者5人に「エモい写真を見せて」と聞くと、5人とも同じような写真を出してくるんです。
中村 それは面白いですね。
長田 事前に打ち合わせをしていないのに、共通認識で「エモい」という感覚を視覚的に頭の中に記憶しているんです。昼と夜など若干の違いはあるものの、「昼だとこう、夜だとこう」など、齟齬なく理解しています。
中村 写真や動画などビジュアルコミュニケーションを通して世界観をつくった先に、何らかのゴールはあるのですか。
長田 その写真や動画をSNSに投稿して生まれるコミュニケーションがゴールです。カフェに行った写真を投稿したら、そこに行っていない子からの反応がほしいし、自分が好きな写真を示すことで同じような世界観が好きな人とつながりたいなど、コミュニケーションへのモチベーションが高いですね。