トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #05
若者は「体験」からの逆算で買う。毎月200人に会って見えた最新消費トレンド【SHIBUYA109 lab.所長 長田麻衣氏】
トレンドは界隈で生まれ、異なる界隈に伝播していく
中村 SNSを通じて交流することがゴールなんですね。最近の若者の消費行動や思考に何らかの傾向はありますか。
長田 若者といっても個人によっていろいろありますが、その中でも「失敗したくない」という思いが強いですね。それは買い物などの消費も、キャリアなどの人生観でもそういう傾向が見られます。周りの目をすごく気にしているので、周りの人から変に思われたくないと恐れているんです。
中村 それは面白いですね。ほかにはありますか。
長田 消費の広がり方に特徴があると思います。嗜好やトレンドが多様化、細分化した結果、SNSでみんなが見ているタイムラインが違いすぎて「マス」と言えるメディアがありません。109ラボでグループインタビューに呼んだ子同士が互いに知らないトレンドがたくさんある状態なのです。
その代わり、“界隈(かいわい)”という特定の緩いコミュニティで盛り上がりを見せてトレンドがじわじわ生まれ、他の界隈に伝播してマスに広がっていくという流れになっています。これを私たちは「界隈消費」と呼んでいます。
中村 たとえば、どのような界隈があるんですか。
長田 ストリート界隈があります。昨年、109ラボで選定した「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2022」では、ファッション部門でアームカバーが1位を取りました。最初はストリートファッションが好きな子たちが集まるストリート界隈で流行りましたが、8月ぐらいからレースやシースルーのアームカバーが出てきたのです。
それを量産系やガーリー系のスタイルが好きな子たちがファッションアイテムのひとつとして取り入れるようになり、伝播していきました。最初にストリート界隈で熱量があったからこそ、他の界隈でも「とり入れてもいいよね」という空気感が広まっていたんです。
中村 面白い、失敗したくないという思いはそこに繋がるんですね。
長田 はい、そこが重要なのです。最初は一部の界隈の動きでしたが、結果的にトレンド大賞で1位になるくらい人気が出たファッションアイテムです。小さい界隈で熱量を持って広がり、他の界隈に伝播する流れに変わってきているんです。
中村 では、その界隈はどのように生まれるのですか。
長田 それはすごく難しいです。ファッションのテイストによる界隈もあれば、K-POPやアニメ、ゲームなど好きなコンテンツの界隈もありますし、クリエイターなど特定の人が界隈の中心になることもあり、きちんとした定義はできないんです。ただ、コミュニティほどかっちりした境界がなくて、別の界隈が少しずつ重なり合っていることもあります。
中村 なるほど。界隈で生まれるトレンドの中心は決まっていないのですか。
長田 はい、当然誰かしらは中心になっていますが、「絶対にこの人だ」と決まっておらず、何となく始まっていくんです。以前10代の若者に「どうなったらトレンドだと定義されるのか」と聞いたら、「私たちがトレンドをつくっている感覚ではなく、そこに参加することで盛り上げて大きくしていく役割だと思っている」と言っていました。
中村 トレンドに「参加していく」という表現をするんですね。
長田 はい、自分のことを「誰かがいいって思っているもの」を膨らましていくひとつの要因だと認識しているんです。
中村 我々が若い頃を思い出すとトレンドがすでにあって、それに乗り遅れてはいけないという焦りからとり入れているパターンがあったと思います。
現代は、ある界隈で盛り上がりを見せてきたコトに対して、自分たちも参加しようという感覚でしたが、その理解であっていますか。
長田 はい、あっています。おそらく今もトレンドから遅れたくない気持ちは一緒ですが、参加の仕方が違うのだと思います。そもそも参加という言葉ではなく、新しい言葉のような気もしますし。
中村 先ほどの「コト消費」が一番今の若者を表している言葉な気がします。先ほどのアームカバーはモノに近い気がしますが、それもコトになるんでしょうか。
長田 はい、コトだと思います。アームカバーは身につけるモノですが、ある場所に行くためのファッションアイテムという認識なんです。そこに必要なアイテムのひとつがアームカバーだったというだけで、軸となるのはコトになります。