トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #07

熱烈ファンの多い『機動戦士ガンダム』から読み解く、マーケティングに価値共創が重要な理由【クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏】

 

マーケティング視点で考える「機動戦士ガンダム」が好きな理由


中村 今回お話をお伺いするにあたって、書籍の中で私が特に気になったのは、『機動戦士ガンダム』の話です。音部さんは長らくガンダムのファンで、マーケティングの書籍でテーマとして取り上げているのが面白いなと思いました。今回のテーマである、「価値共創」に関連する話だと感じました。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

音部 実はこれまで、私はマーケティングを生業としておきながら、自分自身がなぜガンダムを好きなのか、うまく説明できなかったんです。でも、「(連載で読者から)音部さんもお好きだと思いますが、『機動戦士ガンダム』を好きなマーケターが多いように思います。それは、なぜでしょうか(SNSを見ていると、多いように感じました)」という質問が来たので、この機会にきちんと考察してみることにしました。

そこで気づいたのは、ガンダムは「Co-Own(共同所有)」の状態であるということです。ブランドの商標は企業が持っていますが、その存在は顧客の記憶の中にあるという状態がCo-ownです。

たとえば、ガンダムの新作が出たときに、ファンやマニアが「こんなものはガンダムではない」という反応を示すときがあります。それは、消費者側がガンダムに何らかのオーナーシップを感じている、あるいは、ガンダムを表象するものがすでに頭の中に確立されていることを示唆しています。つまり、消費者が「ブランドを自分のものである」と認識できる状態が大切なんです。

おそらく、他の多くのブランドも、ガンダムと同じくCo-ownの状態を目指すべきなのだと思います。そのためにマーケターができることは、消費者に参加を促すことです。書籍にも書きましたが、「発話したくなることを言う」、「真似したくなることを提示する」、「少し加工できる余地を残す」という3つは実践の手法としてありそうです。つまり、完成していない状態、あるいは消費者に完成してもらう状態にできれば、ガンダムのように強い愛情を持って自分のブランドだと認識してもらいやすいのだと思います。

もしかしたら、P&Gのファブリーズというブランドが強かった理由のひとつも、消費者にスプレーを噴射してもらったからかもしれません。芳香剤のようにただ置いておくよりも主体的に参加できるので、愛情を持ちやすい傾向にあると言えそうですよね。
  

中村 ブランドに参加の余地を残すことは、全体設計をする上で先に考えておいたほうがいいのでしょうか。

音部 はい、最初から考えておいたほうが、効果も効率も高くなる傾向にあるでしょう。また、ロイヤルユーザーをよく観察していると、企業が想定していなかった別の使い方をしているケースがあります。その想定外の使い方をしている人も、一種の参加をしていると言えます。

中村 どうすれば、想定外のユースケースを発見できるのでしょうか。

音部 おすすめは、ロイヤルユーザー20人へのインタビューです。そのぐらいの人数にインタビューすると、ひと通りのパターンが聞けると思います。同じ話を何度も聞くと、ほとほと嫌になりますが、それぐらいの人に話を聞ければ、きっと発見できるでしょう。
  

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