トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #09

「マーケティング=顧客中心主義」は間違い? サービス・ドミナントロジック視点から高広伯彦氏が「価値共創」を解き明かす(前編)

 

価値共創は「コクリエーション」であるべき理由


中村 そもそもの話になってしまいますが、高広さんは「価値共創」や「サービス・ドミナントロジック」の概念を日本のマーケティングに持ち込んだ第一人者だと思います。このような概念を持ち込まれた背景は何でしょうか。

高広 先人がたくさんいますので、私が「持ち込んだ」というと語弊があるので、その部分は訂正させていただきたいのです(笑)、最近よく話題にして注目を集めるようにしたということについては、お話しますね。私自身が感じる「サービス・ドミナントロジック」の面白さというのは、先ほどのコンテキストの視点もありますが、やはり「モノ中心」の考え方から「サービス中心」の考え方へ、というものの見方を変えるところにあります。この「サービス中心」の考え方を理解すると、「価値共創」についての理解も深まると思います。

まずこの「サービス中心」というものですが、これは単に「モノからサービスへ」といういわゆる「モノからコトへ」とか「コト消費」の話ではありません。サービス・ドミナントロジックでは、「サービス」というものをもっと抽象化した概念として使っています。例えば「サービスの交換」という言葉が出てくるんですが、「サービスを交換?そりゃなんじゃ???」ってなりますよね。で、ここでいう「サービス」というのは、英語では不可算名詞の service を使います。いわゆるホテルでサービスを受けるといったときにつかうサービスは、 service(s) という可算名詞を使います。サービス・ドミナント・ロジックにおける service ももともとは service(s) のマーケティングのユニークさから生まれてるのですが、それをもっと抽象化したものとなります。ここでは深掘りはやめておきますが、ここから先は「サービス」という言葉を聞いたときに、 service なのか service(s) の話なのかは注意して聞いてください。

先ほども少し話しましたが、サービス・ドミナントロジックは「サービス中心」の考え方です。その反対には、「グッズ・ドミナントロジック」という「モノ中心」の見方があります。これはモノ中心主義の考え方のことです。この2つの違いを簡単に言うと、“モノ”そのものに「価値」が内在しているかと考えるかどうかということになります。企業が生み出す”モノ”には、はじめから「価値」が内在されており、その「価値」に値段が付いており、それを顧客が持っているお金と交換するということです。つまり「グッズド・ミナントロジック」は、同等の経済的価値を持つ者同士の交換を前提にしているような考え方になります。つまり経済学的でもあり、古典的でもある「価値」のとらえ方ですね。一方で、「サービス・ドミナントロジック」においては、“モノ”そのものに「価値」が内在しているとは考えません。”モノ”は使われて初めて「価値」が発生するとか、あるいはあるコンテキストに埋め込まれたときに「価値」が発生するというような考え方をします。「サービス・ドミナントロジック」では、企業だったら企業の持っているノウハウやスキル・資産、消費者や生活者であれば日常的な生活やこれまでの教育の中で得られたノウハウやスキルをそれぞれもっていて、互いに交換しているのはそうした「資源」だと考えます。これを、「サービスの交換 service exchange」と言ったりもするのですが、ノウハウ・スキルといったものを「サービス service」と定義づけているわけです。つまり、売りても買い手も互いの「サービス service」、つまりノウハウやスキルを交換していると考え、その合間に”モノ”があるかないかだけである”と考えます。

  

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