トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #10

価値共創とは顧客との握手である。マーケターがサービス・ドミナントロジックを活かして価値共創を取り入れるには?【スケダチ 代表 高広伯彦氏】(後編)

 

ソーシャルメディアの登場により増えたイノベーション


高広 人が物事を認識したり、言葉を認識したりするときに、それまでに知っている概念や近しい概念から理解するのだという「関連性理論」という考え方が存在します。これはコミュニケーションにおいては結構重要だなと思っている言語学系の理論です。マーケティング・広告において、ターゲット顧客に対して、まったく新しい概念をそのまま伝えるのは非常に難しい。一方で、人間が理解しやすいのは、前から認識している事柄をより強く認識する情報だったり、あるいは逆に反対の情報や意味とであったときなどです。「関連性理論」にといては、人間の認知は原則的に、「関連性の最大化」と連動するように働く、と考えるわけですが、自身がすでに認識している情報との「関連」において理解する、ということですね、つまり。それでどうしてこういうことが起きるかというと、人間の認識というのは意外と怠惰で、もっとも最短距離を選んで理解をしようとする、というのが「関連性理論」の指摘していることなんです。つまり、めんどくさい、まわりくどい理解はしない。そして、話し手が伝えようとした内容を、聞き手は聞き手の認識・コンテキストの範囲内で、“最短距離で”理解しようとすると。

なので、自分たちが関わりを持ちたい、ターゲットにしたいという人の頭の中には、すでにある種の認識(=パーセプション)や理解のための情報などがすでにあることを、マーケターや広告の担当者はまず理解する。そしてその認識や理解・情報に対して、肯定的なアプローチや強化するアプローチを取るのか、それとも否定するようなアプローチをとるのか。あるいは、関連しつつズラしたアプローチをとるのか。といった情報設計が必要。そう考えると、ネガティブな認識もうまく捉えればマーケティングや広報活動にも活用することができるんです。
  

中村 それが顧客の資源になるということですね。今回のセブン-イレブンと八代目儀兵衛のコラボレーションでは、うまくお互いの価値につなげることができたんですね。

高広 そうなんです。いわゆる価値共創やサービス・ドミナントロジックの観点で言うと、さきほどお伝えした通り、顧客の持っているパーセプションもスキルのひとつなんです。

中村 確かにそうですね。また、昔と比較したときに新しい事例や企業側が意図していないイノベーションが生まれやすくなっています。その背景にも、さまざまなコンテキストが昔よりも生まれやすくなっているからだと感じるんです。

たとえば、昔はみんなで同じテレビ番組を見ていましたが、現在ではデジタルやソーシャルメディアの誕生によって、自分だけのコンテキストが生まれやすくなっていると感じます。その辺りについては、いかがですか。

高広 イノベーションなど創発が起きる条件として、同質性の中ではまず生まず、異質なものとを異質なものがぶつかりあったときに生まれるという考え方もあります。非連続性をイノベーションの源泉とするような考え方ですね。また、こうした非連続性って、例えば今だと一人ひとりの人間の中にもあるように思います。現在はソーシャルメディアなどを通じて、ひとりの人間がいろんなキャラクターや顔を持ち、いろんな趣味や仕事を行うことができてますよね。

たとえば、私の場合はトレイルランニングのコミュニティにも属していれば、登山のコミュニティにも属しています。他に釣りとか、アカデミック関係とか、もちろんマーケティングや広告のコミュニティにも属しています。自分の頭や肉体の中でひとつに統合されているものの、他の人から見ると、それぞれ別の私になるわけで、多様な私が存在することになるんです。私は昔、そのことを「Hyper Me」や「編集可能性」という言葉で説明をしたのですが、ひとりの人間が複数の自分を持つことができるし、そのような複数のコミュニティに気軽に入って、結果的にさまざまな創発が起きるチャンスが増えていると思います。

参考:自我も多層化するネット時代~高広伯彦が語るデジタルマーケティングの真実③ (fastgrow)

中村 なるほど。今の時代に生きる人の資源やノウハウは多様化していて、ひとりでも創発がたくさん起きているんですね。一方で、企業側から顧客にむけて一方通行のコミュニケーションだけではなく、企業のビジネスサイクルの中にいかに顧客の持っている資源を巻き込むことができるかが重要な気がします。ただ、ここが非常に難しいと思いますが、さまざまな企業にコンサルティングをしている高広さんの視点から見て、どのように考えていますか。

高広 実際に、現場でなにか特別なことをしているかと言うと、していません。ただ、ミーティングの場などで、このような見方もありませんかと示唆をさせていただくことはあります。あくまでも、サービス・ドミナントロジックは思考する際のレンズのようなものなので、ものごとの見方を変えるために使っているんです。

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