トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #11

脳科学が解き明かす、企業と消費者が「価値共創」する方法【ニューロサイエンティスト 辻本悟史氏】

 

人間は報酬につながることが「価値」


中村 この連載のテーマは「価値共創」です。辻本さんは脳科学の知見から、価値共創をどのように捉えていますか。

辻本 本日の対談前に「価値共創」について少し調べてみました。まず「価値」と「共創」の2つに分けられると思います。

「価値」は、マーケティング用語でいえばベネフィットに近い意味だと思います。それを脳科学の世界に当てはめると、「報酬(リワード)」と表現することがあります。
  

人間にとっての報酬は、単に「ジュースをもらえます」といった具体的なものだけでなく、快感や喜びといったポジティブな情動につながるすべてが含まれます。たとえば、何かをもらえること、社会的に認められることはもちろん、音楽を聴いて楽しむ、美しい絵画を鑑賞するといったこともすべて報酬に含まれます。このような広義の報酬につながるものが、まさに「価値」だと考えられます。

ただ、企業がマーケティング活動で対象としているのは大きな集団なので、報酬もそれに見合う大きなものであり、人々の幸福に寄与するものであるべきでしょう。そう考えると、最終的には地球レベルでの持続可能性に貢献することにつながっていくと考えられます。このような価値を重視することで、消費者と企業が共通の目標を持ち、共創できます。これが価値共創の理想的な姿だと考えます。

中村 ESG(環境・社会・ガバナンス)につながるということですね。企業が考えるそういった目標をお客様に自分ごと化してもらうために、マーケターはどうすればいいのでしょうか。

辻本 ありがちな話ですが、行動経済学でよく言及される働きかけ方は、脳のメカニズムを考慮しています。そのため、表層的なレベルで参考になると思います。

たとえば、「損失回避(Loss aversion:“得る”よりも“失う”ことを回避する傾向が強いこと)」の原則から考えると、自分にとっての環境破壊の危機性を認識させることがポイントになります。

日本は比較的恵まれているため、地球環境の悪化が自分や子孫にとってどれほどの問題になるのかが明確に感じられないことがあります。しかし欧州では、たとえば直近でもガスの供給が遮断される懸念で電気代が大幅に上昇するなど、エネルギー問題への取り組みがより身近な課題になっています。

「後悔したくない」という意識も同様です。もし今アクションを起こさないと、将来恐ろしい問題に直面する可能性があることが具体的に分かれば、そうした状況を避けるために準備しようと動機づけることができるでしょう。

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