トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #12

マーケターは感情と記憶を味方につけよう、最新脳科学から考えるブランドの成長論【ニューロサイエンティスト 辻本悟史氏】

 

消費者と共通のゴールをどう設定するか


中村 ブランドのファンになってもらうためには、どのような仕掛けが必要ですか。

辻本 ひとつは、家に帰ったらこれに触りたい、しばらく離れているとまたやりたくなるといった消費者の生活の根源に結びついている状態にすることです。それに関わる何らかのキュー(合図)やトリガー(引き金)に接した時点で、欲求が掻き立てられるような状態にもっていくということですね。

そのために王道ではありますが、そのブランドを好きになってもらうことが大切です。そこには自分なりの納得できるストーリーのようなものが必要で、言い換えると直接得られるベネフィットになると思います。「もうこのブランドすごい好き」というくらいの商品力やブランド力があればいいですが、なかなかそこまでいかない場合もあるので、何かしら好きになる要素からストーリーづけできるようにしてあげないといけません。
  

中村 今回の話の総括として、マーケターは価値共創時代に何から始めるべきか、アドバイスをいただけますか。

辻本 企業は何事も受け身だけではダメということです。消費者の意見や行動にリアクションするのではなく、また、上から目線で何かを提供するのでもなく、お互いに共有できるゴールを立てて、本当の意味で共創していくことが理想的です。

これを実現するためには、パーパスのようなブランドの存在意義を明確に打ち出して、それを消費者と共有し、一緒に取り組んでいこうというムードをつくり上げる必要があります。

実際の取り組みのプロセスでは、行動経済学が参考になるでしょう。いずれにせよ、消費者に自分ごととして捉えてもらえるようになれば、そこからレレバンシー(関連性)を感じてもらえて、企業が発信するメッセージをよりチューニングが合った状態で受け取ってもらえます。これによって、共創がよりスムーズに進むでしょう。理想論だと思われるかもしれませんが、理想がない状態で消費者の話に耳を傾けることは、逆に少し自分勝手だと思います。

中村 最後にお聞きしたいのですが、マーケターがお客様と一緒に共有できるゴールを設定するにはどうすればいいのでしょうか。
  

辻本 おそらく生物として理想的なのは、人類社会の幸福だと思います。ただ、いきなりそこを目指すのはさすがに大きすぎるので、そこから1段か2段下げたゴールを目指すのがいいのかなと考えています。

ひとつ事例を挙げると、ユニリーバがセルフエスティーム(自尊感情)という自己肯定感を育むキャンペーンを実施していました。自己肯定感はポジティブな行動の原動力にもなり、ネガティブなことが起きたときの回復力にもつながり、社会とのつながりも培うことができます。それを企業として、消費者と一緒に取り組んでいきましょうというテーマは、すごく明確ですよね。

中村 なるほど。今回は、脳科学の視点から今までとは違う観点で価値共創時代のマーケティングを行うにあたってのヒントをいただきました。辻本さん、本日はありがとうございました。
 
中村氏の対談後記
皆様、いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

今回はニューロサイエンティストである辻本悟史さんにお話をお伺いしました。これまでの連載と共通点はありつつ、脳科学の知見から、ドーパミン報酬系を刺激するためのインユース直前の重要性や長期的な関係性を築くためのエピソード記憶につながる体験の重要性など、具体的な施策についてのヒントを頂けたと思います。このような時代だからこそ、脳科学や行動経済学を含め、よりお客様のことを包括的に理解することの重要性を改めて示唆していただいたと感じます。

次回からは、マーケターの方に具体的な取り組みをお伺いしていきたいと思います。
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