鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #03

「愚かなマーケターになるか、真実のマーケターになるか」その境目を鹿毛康司がコーヒーオタクのマーケターと語る

 

コーヒーを通して、人に幸せをおすそ分けしたい


鹿毛 大学に入って、食の勉強を始めたわけですね。

伊藤 大学では理系か文系の学部を選べたので、もともと興味があった理系の研究室に入りました。サークルにも入らず、研究に明け暮れていましたね。あとは、やはりコーヒーが好きだったので、カフェでアルバイトをしていました。そうした学生時代を経て、結果的に食品の中でもコーヒーが一番面白いなと思いました。
  

鹿毛 驚くほど、筋が通っていますね。「好き」を仕事にしているんですね。

伊藤 そうです。でも、自分が担当する商品を好き過ぎる人間は、マーケターとしてどうなのかって、よく言われます。

鹿毛 めちゃくちゃ良いですよ。

伊藤 良いんですか。それなら良かったです。

鹿毛 そもそも、伊藤さんはマーケティングの定義は何のためにあると思いますか?

伊藤 マーケターが自分たちの役割を明確にするためでしょうか?

鹿毛 いえ、定義は議論を促進するために言葉の意味を統一するために存在します。その定義が絶対的な真実であるかどうかはさておき、「これがマーケティングです」という共通理解に基づいて話し合うためです。

定義が適切でなくなったら、変更すればいいんです。米国ではマーケティングの初期の定義は、簡単に言うと「どうやって物を売るか」でした。それが現在、米国マーケティング協会は「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」と定義しています。そうだとすると、伊藤さんにとってのマーケティングとは何ですか。
  

伊藤 実際のお客様とそうでない人たちも含めて、関わる全ての人をハッピーにすることだと思っています。

鹿毛 すごいね。つまり、伊藤さんは自分の幸せの経験を、人におすそ分けする人生を選んだわけなんですよね。それが、伊藤さんにとっての提供価値なわけか。

伊藤 そうかもしれません。自分ではなかなか言葉にできませんでしたが、すごく腑に落ちました。

鹿毛 人に幸せを与えるためには、何をしなければいけないと思っているのですか。

伊藤 いろいろな人に対して、「この人の幸せは何だろう」と考えることですね。

鹿毛 それは、いつから考えるようになりましたか。

伊藤 新入社員のときに営業をやっていて、いろいろなお店の店頭に立って試飲を提供していたのですが、そのときにお客さんから直接お話を聞いて、人によってコーヒーの価値や求めることが全然違うことに気づきました。

自分がコーヒーオタクだから、当然のようにみんなもコーヒーが好きだろうと思っていたので、そうではない人がたくさんいることがショックだったんです。それで、どうしたらコーヒーを好きになってもらえるのかを考えるなかで、どうしたらその人に幸せになってもらえるのかを少しずつ考えるようになりました。

鹿毛 なるほど、コーヒーが好きじゃない人もいてショックだったんですね。オタクですもんね。

伊藤 はい。

鹿毛 ちなみに、ブラジルに行って取得するコーヒー鑑定士の資格がありますよね。伊藤さんは取得しましたか。

伊藤 取りました。まずは社内資格のコーヒーアドバイザーを取得して、そのあと社内で選出され、ブラジルの鑑定士学校に1カ月ほど通って取りました。

鹿毛 UCCにコーヒー鑑定士は何人いるんですか。

伊藤 UCCグループ全体では、現在約40人のコーヒー鑑定士がいます。
  

鹿毛 コーヒーオタクの伊藤さんは、コーヒーそのものというより、コーヒーがある生活の価値を5歳のときに感じたんですね。三つ子の魂百までとは言いますが、まさにそれを大人になっても持ち続けて、追求し続けている人間をオタクというのかもしれませんね。

伊藤 たしかに、そうかもしれないですね。

鹿毛 それを組織の在り方にアジャストしているだけなんですよね、きっと。すごく大切なことだと思います。

伊藤 運が良かったんです。

鹿毛 でも、それだけじゃないですよね。そこに行き着くために、学生時代に食べ物の研究をして、コーヒー鑑定士の資格を取ってと、誰も文句を言えないようなエビデンスを一つひとつ積み重ねてきています。文句が言えないから、じゃあやってもらおうかと思ってやらせてみたらうまい具合に成功しているから、これは叶わないなと思いました。伊藤さんは、そういう人です。

伊藤 すごく褒められた気分です。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録