鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #03

「愚かなマーケターになるか、真実のマーケターになるか」その境目を鹿毛康司がコーヒーオタクのマーケターと語る

 

愚かなマーケターになるか、真実のマーケターになるか


鹿毛
 マーケティングをする上で、何か悩みはありますか。

伊藤 たくさんあります。たとえば、新しい製品をいろいろ出しているのですが、まだまだ販売目標に到達しないんです。それをもっと世に広げるためにはどうしたらいいかを、何回も失敗しながら模索しています。

鹿毛 どうしたらいいと思いますか。

伊藤 コーヒーは嗜好飲料であり、人によって好きが全然違うので、どうしたらより多くの人にこの商品の良さを知ってもらえるのかを考えながら、体験できる機会を増やしています。
  

鹿毛 人によって「好き」が違う。でも、それは何でもそうじゃないですか。

伊藤 たしかに、そうですね。

鹿毛 人それぞれ「好き」は異なります。初めて試飲販売を行ったとき、自分の好みとは違う意見が多いことに気づいたわけですよね。普通のマーケターは、その違いを受け入れられないものです。「愚かなマーケター」になるか、それとも「真実を理解するマーケター」になるか、その分岐点がここにあります。伊藤さんは、真実のマーケターへの道を歩んでいるのですね。

伊藤 本当ですか。いつの間に。

鹿毛 愚かなマーケターは人によって好きに違いがあることを認められないんです。そして、その違いを認めずに「この人たちは分かっていない」と言うんですよね。だから、あなたは真実のマーケターの道を歩いています。

一方で、愚かなマーケターは、自分が価値だと思うものを理解してくれる人を探します。それで、バイアスのかかった調査を始めるんです。そうすると共通項が出てくるのですが、それは企業の言うことに「うん、うん」とただ頷いているだけの「カオナシ」なので、結局、発売しても誰も買わないという状況になるんです。

では、「一人ひとりの好きを認めてマーケティングをする」とは、どういうことだと思いますか?
  

伊藤 私は、いろいろな投げかけをしています。コーヒーの魅力は一つではなく、味はもちろん、先ほどお話しした私が小さい頃に感じた周辺価値もありますから。

鹿毛 それは周辺価値かな。本質価値ではないの?

伊藤 たしかに、周辺ではないですね。

鹿毛 本来価値ですよ。生きるってことですよ。それを本来価値の外側に持ってきてしまっては、愚かなマーケターになります。
 

オタクであることを誇るべき


鹿毛 僕は好きや考え方が違っても、皆がひとつにグッと集まる瞬間があると考えています。それを接着剤として、皆が喜ぶ本質的な価値に導くことができるんです。それができるのは、とある芸術です。

伊藤 何でしょうか?

鹿毛 伊藤さんの好きな、お笑いです。お笑いは、それぞれの人の歩んできた人生や性格が違っても、本質的な人間の価値の部分をストンと突いて大きな笑いにすることができます。それが一瞬でできるんです。
  

伊藤 本当ですね。笑いは人間の本質というか、本能のような感じがしますね。

鹿毛 そうなんです。だから、伊藤さんがお笑いを好きなのは、きっと5歳のときのお父さんに影響を受けているんですよ。飲んだことがないのに、コーヒーが好きだったでしょう。

伊藤 はい、飲んだことはなかったのに好きでした。

鹿毛 飲んだことがないのに、コーヒーのある世界が好きだった。最初から本質価値が好きだったから、コーヒーの世界に入ったんですよ。伊藤さんの中ではその本質価値の追求がずっと続いているんです。ただ、ちょっとそちらに走りすぎてオタクになっちゃった(笑)。でもね、オタクは素晴らしいんです。

伊藤 そうなんですか。

鹿毛 エステーは西川貴教さんを長年CMに起用しているのですが、西川貴教さんの大ファンでエステーに入社した花子という人がいるんです。エステーは毎年、滋賀県で開催されるイナズマロックフェスにブースを出してオフ会を開くのですが、今年は花子に「西川貴教の選挙事務所」というテーマだけを与えて、あとは考えてくれと言いました。そうしたら、イラストが描けるファン仲間を集めて、エステー年表を制作し始めたんです。

できあがったブースは、広告会社に頼めば簡単に1000万円は飛ぶようなものでした。なので、イラストを描いてくれた人たちに「どうお礼を伝えようか」と言うと、西川さんにブースを見てもらう様子を録画すればいいんじゃないかと言うので、それを実行してイラストを描いてくれた人たちに見せました。

そうしたらものすごく喜んでくれて、X(旧Twitter)にも投稿して、それがまたバズったんです。全く予算をかけずに、これだけの広報ができたんですよ。これは、全てオタクの原動力によるものです。

伊藤 すごい。みんなが幸せになる企画ですね。

鹿毛 伊藤さんは提供価値の本質と、その仕事のやり方がお分かりになっていて、僕が出会った部長クラスのマーケターの中でもトップの5%に入ります。

伊藤 ありがとうございます。今日は自分が劣っていると思っていたところを、鹿毛さんから「むしろいいんだよ」と言ってもらえたことが嬉しかったです。
  

鹿毛 その良いところをもっと伸ばすためにも、世の中で一流と思われる人に会いに行って、いっぱい話をするといいと思います。お笑いの人でもいいし。

伊藤 そっちの方向の人もありですか。

鹿毛 どういう方向でもいいんだけど。多分、一流の人は、あなたと同じものを持っているから。そうした人から刺激を受けると、伊藤さんは大成功すると思います。

伊藤 今日は、ひとつのきっかけになったような気がします。頑張ります。

鹿毛 頑張ってください。今日はどうもありがとうございました。
  
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