バレンタイン特別対談 #01

バレンタイン商戦をどう制す? ブラックサンダーとメリーチョコレートが分析する「消費タイミングの二極化」

 チョコを贈るのは、日本独自という説もあるバレンタイン。誰が誰にどんなチョコを贈るのか?ジェイアール名古屋タカシマヤが実施した2024バレンタインシーズンの意識調査(集計期間:2023年12月20日~2024年1月6日、有効回答約2700人)によると、予算総額「3万円以上」が5%アップ、「5万円以上」が3位となり「5千円以上」を上回るなど、贅沢志向がうかがえた。贈り先としては「本命」や「義理」を「推し」が上回るなど、ここにも新たな時代の潮流が見られる。

 バレンタインには日本の最新のギフト文化が照射される。そこで今回は、「義理チョコの代名詞」とも呼ばれ、最近はより自由なチョコの楽しみ方を提案する「ブラックサンダー」で知られる有楽製菓 代表取締役社長の河合辰信氏と、1958年に日本で初めて百貨店でのバレンタインフェアを開催した贈答用チョコの代表格でありつつ、近年は「推し活」向けなど新しいチョコにも幅を広げるメリーチョコレートカムパニー マーケティング本部長の高田基位氏のスペシャル対談を実施。いずれも老舗ながら、時代の先端を走り続けるチョコレートメーカー2社の対話を通して、最新の消費者インサイトと催事マーケットを紐解く。前編である本稿ではまず、それぞれの2024年のバレンタイン戦略から聞いた。
 

「前半型」「後半型」長期化するバレンタイン商戦


―― 2024年のバレンタインは、新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが変わり、「日常」が戻って初めてのバレンタインとなります。今年、特に注力していることは何でしょうか。

河合 有楽製菓は一般的なコンビニやスーパー、ドラッグストアなどで販売するメーカーなので、前提としてバレンタインはそこまで大きな「売上の山」ではありません。その上でのお話になりますが、2024年は、2023年のバレンタインでの失敗を反省した上で取り組んでいます。

具体的にはバレンタイン特別のチョコをつくる、ということです。我々はブラックサンダーをコミュニケーションツールとして提案しており、2013年からは「一目で義理とわかるチョコ」を掲げ、バレンタインではずっと「義理チョコ」を軸に活動してきました。ただ、近年は「義理」に対する風当たりが強くなり、「義務的にやらなきゃいけない」や「何かお返ししなきゃいけない」といった、ネガティブな側面がクローズアップされたため、「義理」を前面に押し出すのは控えるようになっていました。
 
有楽製菓 代表取締役社長
河合 辰信 氏

 1982年生まれ、愛知県豊橋市出身。横浜国立大学大学院修了後、2007年シスコシステムズ合同会社入社、システムエンジニアとして大手製造業を担当。2010年有楽製菓入社。入社後は工場勤務、商品開発を経てマーケティング部や人事部の立ち上げに関わり、営業の統括も兼務。マーケティング部では、ブラックサンダーの「義理チョコ」プロモーションやラップ動画などのプロモーション活動を牽引。2018年2月に3代目社長に就任した。

でも、実は「義理」というのは、普段伝えられない感謝を伝えるコミュニケーションの機会として、非常に良い文化だと思っています。バレンタインは特に、コロナ禍で希薄になってしまった直接的なコミュニケーションを活性化する機会にしてもらいたい。

そこで2023年は「バレンタインをもっと自由に楽しむ」というコンセプトで、あえて特別な商品をつくることはやめてみたのです。「B級バレンタイン未来博」というイベントを企画し、カニの菓子「クラッブサンダー」を中核にしてみました。しかし、「バレンタインらしいチョコはないのか」という、ちょっと寂しげな声も聞かれて、やはり世の中の期待は「チョコレートを楽しみたい時期だ」ということを実感しました。

今年のバレンタインは「ときめき苺サンダー」という商品を、直営店とオフィシャルオンラインショップで数量限定販売しています。もともとイチゴ系の商品はありましたが、これは生換算でイチゴ55%という、とにかくイチゴが濃い商品にして、ときめいてほしい、気分を上げてほしいというイメージで打ち出しました。
  
有楽製菓の「ときめき苺サンダー」

高田 贈答用チョコを主軸とするメリーチョコレートカムパニーとしては、バレンタインは大きな山です。この時期の消費者の購買行動パターンを分析していると、おもな選択基準として「自分の感性に合っているか」で選ぶお客さまが多い様子が見られます。「心の基本姿勢のようなものに引っ掛かるかどうか」で判断していて、「有名なメーカーかどうか」は、購買を判断する要素としてほとんど出てきません。価格についても、一番重要な要素ではない傾向が見受けられます。
 
メリーチョコレートカムパニー 執行役員 マーケティング本部長
高田 基位 氏

 早稲田大学卒業後、1992年ロッテ入社。宣伝部で9年間、テレビCMや新聞、雑誌のグラフィック制作に従事の後、マーケティング部にてコアラのマーチ、トッポ、パイの実のチョコ菓子ブランド担当者として同ブランド群の育成業務に携わる。2011年にポーランドのLOTTE Wedel(ロッテウェデル)社に役員として赴任し、Marketing、R&D、Export部門を管掌しながら、同社の経営に従事。帰国後、国内グループ会社であるメリーチョコレートカムパニーでマーケティング本部の執行役員本部長に着任。現在に至る。

自分の価値基準で、見た瞬間に本能的に自分が欲しいかどうかで手に取られている。その傾向がここ数年で非常に高まっているという印象があり、それを踏まえた商品づくりをここ2年ほど、段階的に実践しています。

購買データからは興味深いことが分かりました。社内では「前半型商品」「後半型商品」と呼んでいるのですが、1月前半頃から始まるバレンタイン商戦において、いわゆる贈答用の詰め合わせ商品はあまり動きません。逆に1月は「推し活」向けのブランド「推しと、私と、チョコレート。」や、猫好きの人のためにつくった「ねこみゃみれ」のような、それぞれの感性に訴えるような商品が一番売れるのです。そして2月に入ると、やはり昔からあるように「誰かにあげなきゃ」という感じで、近くのお店に駆け込んで準備するような商品が急激に動くようになります。

この傾向は総務省の統計とも合致しています。家庭がチョコレートに使う支出額は、1月と2月は他の月に比べていずれも高いのですが、ここ数年、1月の支出がどんどん増えて、2月は下降傾向なのです。ここからどういう仮説が立てられるかというと、1月は自分の感性に合う好きなものを自分のために買っている人が増えて、「誰か」のためにチョコを買う人は減っている。「義理チョコ」が減っていることと符合するのかもしれません。なので、「より自由にバレンタインを楽しもう」という方向に振られている河合社長のお考えには非常に共感します。バレンタインにチョコを買う目的が変わってきているんです。

とは言え、2月10日頃を過ぎると「やっぱり誰かにあげなきゃ」という需要も出てくる。だから、この「2つの山がある」ということをきちんと理解して、商品づくりや販売戦略を立てないといけない時代になったと、社内でも認識を共有しています。

河合  おっしゃる通り、近年は1月からバレンタイン商品の棚ができて、雰囲気ができていきますよね。メディアに取り上げられる機会はやはり2月が多くなりますが、世の中の「美味しいチョコを探したい」というニーズと、「早い時期からバレンタイン商品を並べたい」という売る側の思いが一致して、だんだんと商戦期間が長くなってきました。特に前半、「純粋にチョコレートを楽しみたい」「この時期しか出会えない、感性に合うチョコを探したい」という思いがあふれる1月の比重が増えてきているように思います。

実際、百貨店のバレンタインフェアも3部制をとっているところもありますよね。お店や商品、ショコラティエも入れ替わって、何度もリピートして楽しむ。日本最大級のジェイアール名古屋タカシマヤの「アムール・デュ・ショコラ」は昨年、過去最高売上を更新していましたが、この期間、ずっとチョコを楽しむという「お祭り」的な流れは既にできているようです。

高田 グループ会社であるロッテで「コアラのマーチ」などチョコレート菓子のブランディングを担当していた頃は、実はバレンタインはそこまで意識していませんでした。けれどメリーにとってバレンタインは、やはり存在価値を示す、自社のプレゼンスを上げるための重要なタイミングです。なので、先ほど述べた購買行動の二極化のような傾向を理解する必要があります。「前半型商品」「後半型商品」と時期で売り分ける戦略も、効率を上げるには有効かもしれないことが見えてきたので、今後考えていきます。

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