トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #13

花王がマスマーケティングから大転換、生活者に寄り添う共創戦略の実態を聞く

 

肌は「人と人」「人と社会」がつながるための一番の接点


中村 では、今回の連載のテーマである「価値共創」について、ビオレUVで実施されている取り組みをお聞かせください。

小原 まず前段として、我々がビオレUVを含む「ビオレ」というブランドをどのような想いでモノづくりをしているかからお話しします。

ビオレは、ブランドパーパスに「私たちは、肌を通して 多くのことを感じて生きています。私たちにとって肌は、『人と人』『人と社会』が つながるための大切な コミュニケーションツールであり、暮らしを支える ヒューマン・インターフェイス。肌を通して 社会とのつながりを広げるために、これからもビオレはさまざまな活動やモノづくりに 取り組んでいきます」を掲げています。

「ヒューマン・インターフェイス」という難しい言い方をしていますが、つまり肌は「人と人」「人と社会」がつながるための一番の接点なので、それが健やかになることによって、より豊かな生活が送れると考えています。

中村 「人と人」というのは、手をつなぐとか、そういったことでしょうか。

小原 はい、コロナ禍ではなかなか人と人が触れ合うことが叶わず、気持ちも少し落ち込んだという人が多かったのではないでしょうか。やはり人と対面したり、肌が触れ合ったりすると、多くのことを感じられるのだと思います。

中村 なるほど、肌を通して何かを感じていそうですね。
  

小原 ビオレには、ボディウォッシュやハンドシリーズの「ビオレu」や紫外線から肌を守る製品を展開している「ビオレUV」、男性向けの製品を展開している「Men's Biore(メンズビオレ)」など複数のブランドがあります。それら一つひとつにもブランドパーパスが設定されています。例えば、ビオレUVのパーパスは「太陽と共にもっと笑顔で過ごせる社会へ」です。
  

そこからビオレUVは、独自の価値として「信念」「約束」「商品開発」の3つを定めています。「信念」は自然環境との共生が“健康的な暮らし”に繋がるというライフバリューです。「約束」はUVストレスから肌も気持ちも解放するというブランドパーパスのことです。3つ目の「商品開発」は五感で知覚できる確かな効果実感として、「このようなコンセプト成分を入れたからこう訴求をしよう」という表面的なコミュニケーションではなく、「約束」を守れる「商品開発」をしようという想いで定めています。

中村 一つひとつのブランドにパーパスを設定した上で、ビオレUVでは独自の想いもあるんですね。

小原 そうなんです。そしてビオレUVがモノづくりをする上で一番大切にしているのは、「実感」です。日焼け止めは、どうしても塗ることを億劫に感じてしまいがちですが、その効果を実感できるようにすることで、お客さまに価値を感じていただき、より積極的に使いたくなる製品にしたいと考えています。
  

少しだけ前段として日焼け止め市場(サンケア市場)の特徴をお話しすると、この市場は「不満足市場」といわれています。というのも、日焼け止めにはSPF(UV−Bに対する防止効果を指す)やPA(UV-Aに対する防止効果を指す)という効果の指標がありますが、ルールでその上限が決まっているので、いま世の中にある日焼け止めの9割がSPF50+という上限の表示になっています。それにもかかわらず、世界では9割の人が日焼け止めを塗ったのに、日焼けしてしまったと言っているんです。

また、上限であるSPF50+の製品もその効果はさまざまで、どれを選べばいいかわからないと戸惑う生活者がほとんどです。そこで近年、YouTubeを中心にSNSなどでインフルエンサーをはじめとする生活者がSPF50の日焼け止めを複数用意して、自身の背中などで実際の日焼け効果を検証する様子がよく見られています。生活者はそれを見て、信頼できると感じた製品を購入するんです。

中村 ECサイトなどでは、商品レビューもありますが、インフルエンサーの声と商品レビューの使い分けなどは行われているのでしょうか。

小原 最初の商品との出会いのタイミングは、かなり多くの人がインフルエンサーの情報を参考にしている印象です。商品レビューは、購入の一歩手前で、購入の後押しが必要なときに参考にしているイメージですね。

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