鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #04

「マーケターよ、一度でいいから作詞しろ」 無印良品で本当の共創に挑む若き天才

 

無印良品はプラットフォームであり、ブランドはお客さまのもの


鹿毛 篠原さんは、お客さまとの共創の取り組みの一環として、実際のお客さまに集まってもらい商品を語ってもらったり、一緒に商品をつくったりしていますよね。これまで無印良品で一生懸命に商品開発をしてきた人にとっては、このようにお客さまと対峙してもらうということは簡単なことではありませんよね。
  

篠原 本当にそうです。まずは、社内でこの取り組みに共感してもらうことが重要です。そこで、これまでに日の目を浴びていなかった商品をお客さまであるアンバサダーさんが見つけて取り上げてくれたから、話題になり売上につながった事例を伝えて、価値を感じてもらえた人たちから一緒に取り組んでいきました。

それが最初は靴下のチームでした。その事例を見て、他の商品開発チームからも興味を示してもらえるようになりました。

鹿毛 先ほどから気になっていたんだけど、「アンバサダー」という言葉は少し陳腐に聞こえますね。最近はいろいろな企業から聞かれるようになりましたが、単にメディアとして活用しているだけで、本質的なアンバサダーの使い方はされていないことが多いという気がするんですよね。

篠原 アンバサダーではないとしたら、何て言ったらいいんだろう。パートナーですかね…?

鹿毛 お客さまと共創しているのだから「仲間」かもね。

篠原 なるほど、「仲間」という言葉はいいですね。

鹿毛 篠原さんは、陳腐な言葉を使わないほうがいいと思います。せっかく、もっと高度なことに取り組んでいるんだから。でも、お金をもらっていないのに、その「無印仲間」はなぜ動いてくれるのでしょうか。

篠原 無印仲間の話をすると、よく「無印だからできるんだよね」と言われることがありますが、それだけではないと思っています。

鹿毛 お客さまは自分の生活を豊かにしたいと思っていて、それができるモノに興味がある人たちが無印良品という場に集まって、一緒になってさまざまなことに取り組んでいるというかたちですかね。

篠原 そうですね。無印良品は、たとえば収納商品が有名ですが、それで生活を整えて豊かに暮らしたいという人たちが集まっています。
  

鹿毛 その人たちは、無印良品を良くしようと思って集まっているのではなく、自分の生活を良くしたいと思って集まっているんですよね。そのために収納について考えたい、もっとお金をかけずに生活を便利にする方法を追求したいと思っていて、彼らからすればその場が偶然にも無印良品なんだよね。

篠原 そうですね。無印良品は、そのプラットフォームとしてお客さま自身とお客さまの生活を商品やサービスで媒介しているだけだと思っています。

鹿毛 生活を良くするために、そしてそれを世の中に伝えるために、無印良品もそれを受け入れている。そういう場だからこそ、お金を払っていないんですよね。お金を払ったら、むしろいけないんだよ。宣伝をするために集まってきているわけではないから、お金を払おうとしたら、そういう人たちはいなくなってしまうと思います。

篠原 そうなんです。だから、無印仲間の意見を尊重して「商品がダメならダメ」と言ってもらっていいですし、SNSに投稿をするもしないも、商品を試してもらうときは自由でいいとお伝えしています。あくまでも我々はプラットフォームであって、ブランドはお客さまのものだと考えています。

鹿毛 そう。ブランドはお客さまのものであって、あくまでも企業はプラットフォーマーであり、それをコントロールする人たちなんだよね。篠原さんは、それを徹底しているんですよ。無印良品のこの活動は、いまの日本のマーケティングにとって非常に大事なポイントだと感じました。これが大成功すれば、日本のマーケティング史に残ると思います。
  

最後に、鹿毛康司の総評を話します。いまはSNSマーケティングやアンバサダーマーケティング、インフルエンサーマーケティングなど、いろいろな言葉が独り歩きして、手法だけが広がってきました。でも本来、企業は「世の中にこうやって役立ちたい」という想いを持っていて、その想いとお客さまの「私はこう生きたい」という想いをピタッとくっつけて活動していく。そして、その場がソーシャルであり、その役割がインフルエンサーであったりするわけです。でも現在は、その心を忘れた活動が目につきます。

一方で、無印良品はきちんと心を持った活動をしている。この活動こそがみんなが求めていることなんです。なぜ無印良品はそれができるかといえば、それを企てている篠原さんというリーダーがお客さまの本当のインサイトを探り、人の心を動かすことを大切にしている人だからです。

そのうえ、Xや海外マーケティングなど、いろいろな経験をしながらデジタルを追求した人なので、デジタルでは人と人のぬくもりや交流が得られないことも分かっていて、その上で本当の共創をしようとしている。まさに篠原さんは、天才なんです。

篠原 ありがとうございます。鹿毛さんの愛の溢れる言葉でものすごく綺麗にまとめていただき嬉しいです。自分がやっていることの価値を振り返ることもできました。

鹿毛 日本のマーケティングを変えてください。応援しています。本当に良い話をありがとうございました。
  
対談終了後の(左から)鹿毛康司氏と篠原佳名子氏(ご自身のご希望で無印良品のストラップを着用して撮影)
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