トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #16

フォントでもブランドを表現? 資生堂清水氏が重視するディテールの追求

 

ディテールにこだわり、すべてのアウトプットに誇りを持つ


中村 歴史はないけれど、ブランドを確立したいという場合もありますよね。そうしたブランドに、何かアドバイスをいただけませんか。

清水 その場合は、ものが溢れているこの現代の社会の中でそのブランドが存在すべき必然性、他のブランドでは成し得ないどんな価値をお客様に届けるのかというポイントを掘っていくことですね。その理由は、ブランドを創った根底にある想いが非常に重要だと考えているからです。それを誰に対して、なぜ届けたいと思ったのか、既存のサービスと何が違うのかなどを、ひたすら考えます。

ブランドのひとつや2つがなくなっても別に困らないような世の中で、市場にあるべき必然性は何なのかを詰めていくことが重要だと思うんです。仮に歴史がなくても、そこに想いはあるはずですから。
  

中村 それは、パーパスをつくるということですか。

清水 パーパスに近いですね。しかし、ふわっとしたものではなく、これでなければならないという比類ない、絶対的な必然性のある価値になっているかというシャープネスが非常に重要です。

中村 なるほど。では、最後に本記事を読んだ人が清水さんのように取り組んでいきたいと思ったときに、何から始めたらいいと思われますか。

清水 プレステージ・ビジネスにおいて非常に大切なのがディテールへのこだわりで、「ラグジュアリー・ビジネスにおいては良い戦略よりも(戦略が多少粗くても)細部までこだわったエクセキューションの方が大事な場合がある」という言葉があります。

「美に対する判断力」という点において私が影響を受けたのがロレアル時代のフランス人の上司で、圧倒的な審美眼を持っている人でした。ディテールに対するこだわりが中途半端ではなく、提案資料もパワーポイントのフォントが美しくないと中身を一切読んでもらえないという徹底ぶりでした。

プレステージ・ビジネスを預かる人間として、資生堂でもディテールへの美しさに対するあくなき追及は緩めずにいたいと思っています。「感性」という漠然としたものの強化をどうやって組織に仕組みとして入れるかを考えると、一朝一夕には培えないスキルなので、日々の業務の中で「美しいかどうか」にこだわるための仕組みとして個人的には有効だと思っています。

広告であれ、リーフレットであれ、チームメンバー一人ひとりがプレステージ・ブランドとしての品格と佇まいをお客様に届ける仕事をそれぞれの持ち場で担う中で、資料ひとつでもブランドの表現として相応しくないものに違和感を持てなければお客様にお届けするアウトプット自体がブランドの表現としてちぐはぐになっていきます。

小さなことに思えるようですが文字の種類や色でも、どこからどう見てもそれぞれのブランドドキュメントだとわかるようにすべきだと思っていたのです。どこから切り取ってもブランドの佇まいが整っているとあるブランドの方とお話をしたとき、ノートやペンといった持ち物のすべてがすべて決められているとお伺いしました。「ブランドらしい」ものに囲まれて生活をするからこそ、ふさわしいアウトプットが出せるという一例かと思いとても納得感がありました。

文字の種類や色といった細かなディテールの違いに違和感のないチームでは、ふとしたときにお客様にもそれが見えてしまうんです。チーム一人ひとりがブランドの美意識や審美眼を体現するために、すべてのアウトプットに対する誇りを持つことから始めるのがいいのではないでしょうか。

中村 なるほど。ディティールを大切にすることから始めるといいのですね。今回は、価値共創において、プレステージブランドなどの観点からお話を聞きました。清水さん、本日はありがとうございました。
  
 
中村氏の対談後記
いつも読んでいただきありがとうございます。今回は資生堂ジャパン株式会社プレステージ事業本部マーケティング本部長である清水さんからお話をお伺いさせていただきました。プレステージブランドを、業界を超えて複数手掛けてこられたこそのご自身のマーケティングの哲学や想いが垣間見えました。パーパスやナラティブといった概念も自分ごと化して解釈され、実践的にされていたのも印象的でした。私事ですが、3月に京都芸術大学で修士(芸術)を修了したものとして、京都西陣織ブランドのHOSOOさんのお話とも非常に共通的が多いなと感じると共に、過去の作り手の想いを現代人の価値観へデザインし直す清水さんのお姿に感動すら覚えました。貴重なお話をありがとうございました。
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