トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #19

共創の第一歩は自分自身の「観察」の追求【コルク代表 佐渡島庸平氏】

前回の記事:
Z世代の文脈にどうすればハマる? アサヒビール「夜ピク」の事例からFinT 代表取締役の大槻祐依氏が解説
 ソーシャルメディアの普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。

 第10回は、コルクの代表取締役社長、佐渡島庸平氏が登場。『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などの人気マンガを編集者として立ち上げ、現在はクリエイターエージェントとして、作品編集、新人作家の発掘・育成、ファンコミュニティの形成・運営、グッズ展開、SNSや電子書籍運用などでクリエイターの価値を最大化する。

 同氏は、データや論理的思考だけではない、センスや感性を磨くために注目すべき「観察力」がビジネスパーソンに求められると主張している。「価値共創」の時代にマーケターに求められる「観察力」を得るためのヒントについて詳しく聞いた。
 

「観察」は、共創の第一歩


中村 本日は、佐渡島さんが考える「価値共創」について、いろいろお聞きしていきたいと思います。まずは、佐渡島さんのご経歴と現在のお仕事からお伺いできますか。

佐渡島  もともと講談社で『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などのマンガの編集を担当していました。現在はコルクという会社を経営し、クリエイターのエージェントと組織育成に取り組んでいます。クリエイターの定義はいまのところ、マンガ家や小説家が中心ですが、アニメや音楽、ミュージックビデオ、ゲーム制作者など、幅広く感情やストーリーに特化している人のことです。
 
コルク 代表取締役社長
佐渡島 庸平 氏

 1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、講談社を経て、2012年株式会社コルクを創業。「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションとするクリエイター・エージェンシーとして、作品編集や 新人マンガ家の発掘・育成、ファンコミュニティの形成・運営、グッズ展開、スクール事業などをおこなう。講談社時代に『ドラゴン桜』(三田紀房)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの連載を立ち上げ、現在もエージェント契約を結ぶ。佐渡島庸平公式note

中村 ありがとうございます。佐渡島さんの書籍『観察力の鍛え方』は、私が通っていた京都芸術大学大学院でも勧められていました。

たとえばリンゴをデッサンするとしても、バイアスを外してありのままに観察しないと、実は丸くない本当のリンゴを描くことはできません。マーケティングにおいてユーザーを理解しようとする場合にも同様に、「観察」は欠かすことはできないと考えています。

佐渡島 おっしゃるとおり、観察は非常に重要です。リンゴの例でいえば、マンガ家に肝心な絵の上手さとは、丸いか丸くないかよりも、少ない線でも「フレッシュさを伝えられる」ことです。たとえば、人が空中にいる姿を描いたとき、その状態がジャンプをしたばかりなのか、一番上なのか、降りている途中なのかが、瞬時に理解できるのがすごい絵なんです。

中村 なるほど、それは表現力ということですか。

佐渡島 そうですね。人間をしっかりと観察した上で、マンガで再現できるかどうかが大切です。写真のように精密な絵である必要はありません。キャラクターがどれくらい怒っているのかといった感情や力が伝わる絵が描ける人が、素晴らしいマンガ家だと思います。

中村 「感情が伝わる」ということは大事なキーワードかもしれないですね。ご著書『観察力の鍛え方』を読んで私も感銘を受けたのですが、その内容について教えていただけますか。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

 慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

佐渡島 『観察力の鍛え方』は、マンガ家に「もっと観察できるようにならないといいマンガが描けない」というフィードバックをどう伝えようかを考えて書いた本です。本書では、違う見方や切り口がないかを常に考え、どんな表現ができるか考えることの重要性を伝えています。

中村 書籍の中で「観察力はドミノの1枚目」という表現をされていて、面白いなと思いました。その辺をもう少し詳しく教えていただけますか。

佐渡島 僕の思考法ですが、ある事象を見ているときに、「みんなはこう見ているけれど、違う見方で見るとどう表現できるか?」を、常に考えるようにしています。

たとえば、シャツのボタンが取れているとします。気づかなければ着続けられるのに、気づいてしまったら気になりますよね。人は、違和感に気づいたらそれを考えざるを得ません。違う視点がないかを観察することが「ドミノの1枚目」です。

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