トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #19

共創の第一歩は自分自身の「観察」の追求【コルク代表 佐渡島庸平氏】

 

自分と向き合い、認知バイアスを外す


佐渡島 マーケティング業界ではお客さまの解像度を上げるために、「Whyを5回繰り返して質問する」ことがいい考え方だとよくいわれますが、僕は『ドラゴン桜』のネタを探していたときに「本当に原因を追求するとき以外には『Why』を使わない方がいい」という考えにたどり着きました。自分に「Why」を繰り返すことで、脳内で遠回しに自己否定をしていると気づいたのです。

自己否定をすると、気持ちが下がって行動量が減ってしまいます。不必要に自分を攻撃せずに思考を進めるために何が必要か考えた結果、物事をしっかりと見ること、つまり「観察」を意識しようと考え たのです。

中村 「Why」が思考の罠になってしまうというのは納得です。佐渡島さんはご自分の脳と常に向き合っていらっしゃるんですね。『観察力の鍛え方』では、観察を妨げるもののひとつとして「認知バイアス」も取り上げられていました。

佐渡島 認知バイアスに興味をもったのは20代後半のときです。ちょうど『ドラゴン桜』が終了し、『エンゼルバンク』という作品を担当していました。小ヒットくらいで、『ドラゴン桜』の次のヒット作まではいかない状況でした。ちょうどプライベートもうまくいかず、「もっと強くなりたい、能力を開発したい、超能力があったらな」と考えました。

せっかく出版業界という少し特殊な環境にいるのだから、会いたい人に会いに行こうと思い、超能力者について調べ始めたところ、超能力者は「認知バイアス」を利用していると知りました。これが認知バイアスに興味をもつきっかけでしたね。
  

認知バイアスは、出来事を理解したり他人を解釈したりするときに掛かっているものですが、それ以前に物事の捉え方は、感情や社会的コンテキストでもかなり変わります。有名なマーケティングの話でいえば、柔らかいティッシュはすでに世の中で発売されていた中で商品名として『鼻セレブ』という名前にしたことで、急に売れるようになったと聞きました。こういった事例もコンテキストを活用していますよね。

最近、面白いと思った事例は白湯です。以前から販売されていましたが、そのときは通常の水と同じように富士山や冷たそうに見えるビジュアルで販売していました。それを温かみのあるデザインに変えた途端に売れ始めて、もともとあった「冷たそうな白湯は美味しそうではない」という認識が変わりました。これもコンテキストをどのように設計するかという話ですね。

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