トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #19
共創の第一歩は自分自身の「観察」の追求【コルク代表 佐渡島庸平氏】
2024/05/13
自己理解は「心のパンツを脱ぐ」ことから始まる
中村 いまのマーケティング業界では「共創」というキーワードが頻繁に登場しています。共につくる相手と共感・共鳴をするには、まず「観察」で相手が何を欲しているかを理解する必要があると考えますが、この点どうお考えでしょうか。
佐渡島 僕も、作家も、まず観察をする対象は「自分」です。その理由は、他人の観察は思い込みで解釈を間違えるからです。自分を正しく観察することから、すべてが始まります。
講談社時代に立ち上げた『宇宙兄弟』は、初期の頃は上がってきたネームに赤字を入れてばかりでしたが、4巻~5巻目になると、「面白いです」しか言うことがなくなりました。作者の小山宙哉さんに、どうして急に面白いマンガを描けるようになったのか を聞くと「いままでは世の中的におもしろいマンガを描かなければと思っていた。それを、自分が好きなこと、自分がワクワクして読みたくなる流れを描くようにした」と言っていてすごく腑に落ちました。
マーケティングは会社を説得していく仕事ですので、外部の観察から始まりがちです。しかし基本的には自分もひとりの消費者だと捉えて、自分を観察することを忘れてはいけないと思います。
中村 インサイトを重要視されているマーケターの鹿毛康司さんは、自分をとことん理解しなければいけないことを「心のパンツを脱ぐ」と表現されています。表現は違いますが同じことをおっしゃっていますね。
佐渡島 そうですね、同じだと思います。僕の場合は「心のパンツを脱げ」を『SLAM DUNK』や『バガボンド』の作者である井上雄彦さんから言われたことがあります。「俺はパンツを脱いで街を歩いているのに、編集は澄ました顔をして街を歩いている。それだと打ち合わせできないから、編集も心のパンツを脱いでください」と言われました。いまではコルクの行動指針であるバリューにも「やりすぎる、さらけだす、まきこむ」を掲げています。
※後編 『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』など手がけるコルク佐渡島庸平氏が語る、ヒットを生み出す自己理解 に続く