トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #20

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』など手がけるコルク佐渡島庸平氏が語る、ヒットを生み出す自己理解

 

観察力を上げるために「自分の中に多様性を持つ」


中村 読者アンケートの話に戻りますが、アンケートはマンガ家さんとの話し合いの参考にされますか。

佐渡島 はい、参考にします。『ドラゴン桜』は途中で読者に母親が多いと気づいたので「東大に受かるかどうかよりも、幼少期にどう育てたら東大生になりやすくなるのかという要素を積極的に入れましょう」と提案しました。最近では、X(旧Twitter)上の感想をスクリーンショットで作者とのグループLINEで共有しています。
  

中村 SNSもご覧になるんですね。マーケターもSNSの投稿に一喜一憂しがちですが、コンテキストや認知バイアスもある中、必ずしも正解ばかりでもないと思います。

佐渡島 そういうことも作家と話し合います。逆に読者のSNSの反応までもしっかりと話し合える関係になることで、いいチームとなり、結果にも結びつきます。解釈は都合よくしようとすればできてしまうので、しっかり作家と認識を合わせにいくんです。

コルクがエージェントをしている羽賀翔一さんが描いた『君たちはどう生きるか』は今も売れています。そもそもは10万部ぐらい売れることを目指したマンガで、200万部も売れているのは運もあります。作家の実力だけではないので「次も200万部!」と力まず、「もう1回10万部売れるマンガを描こう」と話し合いました。

中村 それらのジャッジはどこでしますか。先ほどの中央値の話もそうですが、皆さん自分の位置を見つけることが難しいのではないでしょうか。

佐渡島 僕は編集者なので、常に頭の中でマンガを「おもしろいものベスト3」などと並べてみることをしています。ランキング、マッピング、4象限などで「これはどこに入るだろう」と考える練習をするのがいいと思います。

中村 自分や顧客と向き合う、競合商品や他のカテゴリーなどで視野を広げる、自分なりにランキングして実際の数値と比較して中央値を見つけるということですね。いいヒントをいただいたのですが、マーケターはどこからスタートするのがいいでしょうか。

佐渡島 まずは、より「メタ認知」をしていくことが重要です。商品マッピングはメーカーも広告会社も行っているので、その中で自分だったらどうするのかを考えることです。

たとえば、海外旅行でそのジャンルの商品を買ってみたり、使い方を現地の人に聞いたり、まったく違う業界で比較して比べてみる。そうすると4象限にまったく違う軸を足せることに気づき、マッピングの仕方も変わるでしょう。いろいろな俯瞰の仕方があるはずなので、さまざまな方法を試してみるといいですよ。そうなれば自分の商品の見方や説明の仕方も変わります。

認知バイアスの外し方や、どう俯瞰的に物事を見るかには、自分の立ち位置をどう捉えるかが重要で、地図の縮尺を変えるだけで自分の居場所は変わります。世界地図も、日本中心の地図とヨーロッパ中心の地図では見え方が全然違いますよね。

中村 自分を俯瞰的にみるために、普段から心がけていることや取り組まれていることはありますか。
  

佐渡島 「会いたい」と言ってきた人の理由がよくわからない場合は、自分で判断せずに会いにいくようにしています。自分が知っている範囲の人と会うばかりでは、新しい認知は生まれないと考えているからです。

昨年、「獣医学会でウェルビーングについて講演してほしい」という依頼がきました。依頼先が獣医学会であるのも、ウェルビーングというテーマ自体も「なぜ自分に?」という状況でしたが、引き受けました。そういうはじめての経験をし続けることで、認知バイアスを外したり俯瞰してみることができたりするのではないでしょうか。

中村 自分の中に多様性をどんどん持ち込んでいるんですね。

佐渡島 そうですね。講談社時代は、副業ができなかったので自らボランティアでいろんな仕事の手伝いなどに行っていましたよ。

中村 面白いですね、明日からでもマーケターができそうな気がします。最後に、マーケターに一言アドバイスをお願いします。

佐渡島 マーケターの皆さんはぜひ、マンガを活用してマーケティングしましょう!

中村 今回は、価値共創において、「観察」などの観点からお話を聞きました。佐渡島さん、本日はありがとうございました。
  
 
中村氏の対談後記
価値共創時代のマーケティングでは、過去の連載で何度も出てきたように、お客様と向き合うことの大切さが一段と必要とされています。その中で、今回は「観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」 (SBクリエイティブ)の著者でもある佐渡島庸平さんにお話をお伺いしました。特にお客様の観察・共感をするという点で参考になるお話が多かったのではないでしょうか?より良い観察を行うためには認知バイアスを外す、そのためにはお客様との観察だけではなく、より深い自己理解が必要だという点は個人的にも学びになりました。こうした深い観察をした上でのお客様への共感はより良い価値共創時代のマーケティングにつながっていくと思います。佐渡島さん貴重なお話をありがとうございました。
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