社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #04

マーケターは「欲求」の迷路を解き、「希望」に寄り添い価値ある消費を【LIFULL篠崎亮氏】

 

モバイルからも「欲望」「希望」の扉は開く


 ここまで読まれて、モバイルを軸としたITやサブスクリプションサービスのマーケティングに批判的な論調と受け取られたかもしれませんが、そうではありません。この時代だからこそ、消費者の行動を否定せずして「欲望」「希望」に寄り添うこと。それを実現した例として、Netflixのメッセージ“We're only one story away.”を紹介したく思います。日本では「ひとりじゃない、世界がある」というメッセージにアダプテーションされています。
  
Netflixのグローバルキャンペーン“We're only one story away.”(出典:Netflix)

 このNetflix創業初のグローバルキャンペーンはコロナ禍の2020年9月から展開され、緊急事態宣言による外出自粛を経験し、分断された社会において、家で一人モバイルと向き合う人々の孤独から生まれる「つながり」への欲求と、多くの人が一緒の作品を見るというサービス利用を紐付け、消費の意義を高めました。これは、どのサブスクリプションサービスでも可能なわけではなく、オリジナルのヒット作品を多数生み出し、RTB(Reason To Believe)を持っているNetflixだからこそ発せられる強固なメッセージだと思います。

 この展開と並行して触れたい現象に、日本のZ世代・ミレニアル世代における「チル」という言葉のトレンド化があります。「チルアウト」はその前の世代でも馴染みがあって、アウトドアやサーフミュージックとも連動したイメージを保有していたと思います。しかし、Z世代の使う「チル」は、「家でまったりする」ことに主眼が置かれており、「ネフリでチルってる」など、Netflixと組み合わせて使われるようです。因みに「Netflix and chill」は英語圏では性的意味を含むインターネットスラングとして知られますが、日本ではその意味を理解して使われているかは分かりません。ただ、衝動的な消費とも違うサービスが、日常に新たな価値をもたらし、受け入れられたことを象徴的に表す現象だと思います。

 もうひとつの事例として、2022年末に公開した「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」の新コンセプト「叶えたい!が見えてくる。」もご紹介します。
 
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」
サービスコンセプト「叶えたい!が見えてくる。」

 先述の通り、消費者が自身の欲求を正しく把握して、正しく叶える行動を取ることは非常に困難です。そして、住み替えの検討には一定の検討する時間を要します。消費者から「サービス利用」の時間シェアをいただく立場として、共に向き合って課題を解決し、本当に叶えたい希望を見つけ出して、新たな暮らしの可能性を広げられる住まい探しの体験を提供していく意思が込められています。

 時間・サービス・商品・お金と、消費のあり方が大幅に変わったこの時代、消費者全員が明日からモバイルを手放すような大きな行動変化が急に起こることは無いでしょう。むしろ、スマホ依存がもたらす健康や社会性への影響は社会問題化もしています。AI等のテクノロジーが進化するいま、マーケターは自身のサービスや商品がどのような欲求に応えて消費されているかを理解して、消費者の「欲求」を解き明かし、今後、どのような消費行動と顧客との関係性をつくり出すか、悩みながら活路を開いていく役割を担うと思います。

 最後に、私は消費者の心理を研究するうえで、多くの文献と共に、人々の共感を生むアーティストの歌詞にたびたび、助けられています。今回執筆をする中でも、聞いていた曲の歌詞がインターネットに「希望」を抱く現代の若年層の心に通じると思い、本記事を締めくくる言葉として引用します。

Everything,Everything,Everything(2024mix)
(Have a Nice Day!)

僕はインターネット 世界と繋がってる
だけどひとりぼっちさ 誰も僕に追いつけない
僕が眠るときは この世界が終わるときさ
そのときはどうか僕を 強く抱きしめておくれよ
(一部抜粋)


作詞・作曲 浅見北斗
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