マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #27

「なつかしさ」をマーケティングにどう応用する? 心理学の理論にもとづいて検討

 

消費者行動の文脈でのノスタルジアの分類


 前述のように、ノスタルジアは社会的結びつきや自己肯定感を強化して、心理的ウェルビーイングに寄与する重要な感情です。ではそれは、消費者行動の文脈では、どのように扱われているのでしょうか。

 ここまで述べてきた心理学の文脈では、ノスタルジアは、主に個人の経験の記憶にもとづくものでした。一方で、消費者行動に影響するのは、自分たち自身の過去の経験に限ったものではありません。生まれる前のことや、直接的に経験していなくても知識として知っているものなど、いろいろな「ノスタルジア」が扱われます。

 たとえば、ノスタルジックな広告に関するある研究(脚注14)によると、ノスタルジアは、自分が生まれる以前の出来事に対するものと、自分が経験した出来事の記憶にもとづくものの2つに分類されています。前者は「歴史的ノスタルジア(Historical Nostalgia)」、後者は「個人的ノスタルジア(Personal Nostalgia)」と呼ばれます。

 歴史的ノスタルジアは、自分自身では直接経験していない「古き良き時代」の文化や出来事、人物などへの感情移入によって生じる現象だと考えられます。たとえば、都心で生まれ育った現代の若者にとって、田んぼの風景、さびれた駅舎、昭和の街並み、フィルムカメラで撮影した写真などが肯定的な感情を喚起するとしたら、その感情は歴史的ノスタルジアに分類されるでしょう。



 一方、個人的ノスタルジアを喚起する要素の例としては、子どもの頃によく遊んだおもちゃ、通学時に聴いていた音楽、子どものころに好きだった食べ物、友達と作った秘密基地などが挙げられます。また、通っていた学校のイメージも代表例としてよく出てきます。

 厳密にいうと、歴史的ノスタルジアは本来のノスタルジアの意味とは違うという考えもありますが、消費者行動やマーケティングの文脈では、生まれる前のことも含めるべきという意見のほうが一般的です。直接経験していない過去のことであっても、ポジティブな感情を引き起こし、社会的結びつきや安心を感じられるという共通点があり、どちらも、消費者の感情や行動に強い影響を与えるからです(脚注15)。ノスタルジアを利用して商品やブランドへの感情的なつながりを強化し、購入意欲を高めることが目指さされる文脈では、個人的ノスタルジアだけでなく、歴史的ノスタルジアも活用することが効果的だというわけです。

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