トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #21

鹿毛康司氏が語る、AI時代に求められるマーケターの真の役割

 

インサイト発見のためのデータ分析はある


中村 これまでのお話で思ったのですが、インサイトを理解するときに注意すべきことのひとつに、人が言っていることや行動していることは必ずしもインサイトとして正しいわけではなく、その背景や文脈などを踏まえて掘っていかなければ、その人が本当は何を感じたから、どんな行動をしたのかという因果関係がわからないことがありますよね。人間が言っていることと心で感じている本当のインサイトが乖離すればするほど、観測されるデータポイントと実際の行動が離れるので、AIだけでは難しいことのひとつなのだろうなという気がしました。

鹿毛 おっしゃる通りです。人は口にしていることと、行動していることに大きな違いがでてきます。「言っていることとやっていることが違う」ことを見つけるのにはAIはつかえますよね。ただそれは単なるギャップであって、そこを深く掘り下げていかなければいけない。それは心がわかる人間が人間らしく寄り添うということですよね。

最近、バーガーキングのテレビCM制作でクリエイティブディレクターを務めてさせていただきました。ノバセルさんのチームと一緒にやったのですが、データ分析からインサイトがありそうなギャップを発見したんですよ。



モスバーガーやマクドナルドを検索している人は「ハンバーガー」というキーワードで検索していると。一方で、バーガーキングを検索している人には、それらの競合にはないキーワードがあることがわかったんです。それは、「焼肉」だったんです。ノバセルチームは、これを検索分析で発見しました。

中村 でも、「焼肉」を見つけたこと自体が面白いと判断したのは、やっぱり人間ですよね。AIができるのは、あくまでもデータを出すことまで。

鹿毛 はい、その通りです。彼らはゴリゴリと分析して「焼肉」にたどり着きました。ここからインサイトを導いたのは人間である我々です。彼らとディスカッションしながら人の中にあるバーガーキングのインサイトを見つけようと話し合いました。

中村 どのようなインサイトになったのですか。

鹿毛 人の心の中には「焼肉も食べたいけど1人では食べられない」というインサイトが大切なことに気がつきました。一方でバーガーキングの特徴はハンバーガーを直火でやいていることなんです。それは商品特徴でしかない。ところが「ひとりて焼肉をたべたいけど食べられない」と心の奥で思っている、つまりインサイトですが、これとバーガーキングが線で結びついたわけです。そのインサイトへのプロポーザルを「肉だ、直火だ、食事だ、バーガーキング」としました。
 
テレビCM「ワッパー 肉だ。直火だ。食事だ。いらっしゃい篇」

これで、皆の心の奥にある「肉はひとりで食べられない」と、バーガーキングの商品特徴「直火」がつながるわけです。データ分析と人の心とが共存して生み出していったマーケティングでした。

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