トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #22

「人間にしか表現できない“泥臭さ”がAIに勝つ」鹿毛康司氏が語る価値共創時代のマーケティング

 

人間にしか表現できない“泥臭さ”


鹿毛 今の時代はSNSが台頭したことで、潤沢な予算をもつ大企業にも匹敵できるようになりました。ところが、最近はその手法をマネタイズする企業が現れ、結局お金がかかるようになってきてしまっています。私は今、それに悩んでいるわけです。

そこで、まったく視点を変えてみようと思って取り組んでいるのが、筑紫女学園の生徒募集です。定員の500人を集めるのも大変なんです。通常のパンフレットを一生懸命つくって職員が高校に行き、そこの生徒さんたちに筑紫女学園のよさを伝えるという活動が重要なんです。ただ、もう一つ何かが必要だと考えたときに冒頭のミュージカル風の映像を制作しようと思ったのです。



自主的に参加してくれる生徒さんが集まりました。それを大学職員と一緒につくろうと思ったんです。

制作費は安いですが、このコンテンツを見ていただけると、おそらくその空気が伝わり、応募数にもつながるのではないかと。生徒と職員が一緒に取り組む。その暖かさが、その周波数が高校生に伝わり、それぞれの高校にアメーバ的な振動が発生して、それが結果的に応募数というものに変換すると良いなあと。リーチするというよりも周波数の響き合いが大切だと思っています。これはまさにインサイト。AIではできない価値共創のすべてをミックスしたコンテンツなのかもしれませんね。

中村 確かにそうですね。AIはオペレーショナルなことならできると話しましたが、今の話のように一つひとつ丁寧に考えて解釈しながら、泥臭くオペレーションすることはAIではできないかもしれないですね。インサイトを見つけて、アイデアをつくって、最後まで詰めるという“泥臭い”こだわりが、本当の共鳴や共振を生んでいくのかなと思いました。
  

鹿毛 そうか。“泥臭さ”という人間性は残るんだ。冒頭でマーケティングオペレーションの領域はなくなると話しましたが、AIに取って代らない人間性は残りますね。

中村 最後に、価値共創や今回の共鳴、共振に取り組もうとしているマーケターにアドバイスをいただけませんか。

鹿毛 マーケティングって、フレームワークを使えば、何かができるというものではないんですよね。人間くさいものだと思います。機会的な仕事はAIに取って代わられます。私たちがやるべきことは、価値共創のマーケティングを実践する。自分たちがフレームワークをつくるぞというくらいの意気込みで、オリジナルのやり方をつくっていく必要があると考えています。そして、オリジナルのやり方を考えている人間たちが一堂に会して、何か新しいエネルギーが生まれればいいなと思っていますね。

中村 今までの常識を疑えということですよね。

鹿毛 そういうことですね。今までの常識を超えて、お客さまに「恋」をして人間らしく仕事をすると無双の仕事が生まれると思います。実は、そんなことを考えて7月26日に『無双の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)という書籍を出します。

中村 私も、それは大切だと思っています。鹿毛さん、本日はありがとうございました。
  
 
中村氏の対談後記
 今回は尊敬するマーケターの鹿毛さんにお話をお伺いしてきました。今回のお話を通して、共創というのは結果的に起こる現象で、その手前にはブランドやブランドのコミュニケーションに対する共感、共感と共感がつながることによる共鳴、その中でシナジーが生まれる共振、結果として起こる共創というステージがある気がしました。共感は多くのマーケターが意識していると思いますが、共鳴・共振を意識してマーケティングをしている方はまだまだ少ない気がします。今回の鹿毛さんのお話ではエステー時代の「空気を変えよう」というテレビCMから筑紫女学院の例などを通して、共鳴・共振を起こすためのヒントがありました。特に人の心を理解するからこそできる共鳴・共振こそがまだAIができないマーケターの役割であるというご意見は多くのマーケターの方にも参考になったのではないでしょうか?鹿毛さん、刺激的なお話をありがとうございました。
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