マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #28

「人間の嗅覚はオワコンではない」共感覚比喩によるコミュニケーションを考える

 

さいごに


 嗅覚に焦点を当てて話を進めてきましたが、共感覚比喩に関しては、他の感覚に関連したコミュニケーションにも参考にできると思います。とはいえ、におい・香りは特に説明が難しくて、陳腐になるか意味不明になるかという怖さがあるため、ちょうどいいバランスを見つけたいところです。日本語には、「オノマトペ」という心強い味方もありますし、それらを駆使して新しい表現を定着させるくらいの勢いで取り組んでいただけると、大変心強いです。

 マーケティング関係者の方々なら、嗅覚が消費者行動に多大なる影響を及ぼすことは、いまさら確認するまでもないことでしょう。とはいえ、最近の科学研究が示すように、嗅覚は単に感覚の一つではなく、私たちの生存、社会的行動、文化に深く結びついています。これは、嗅覚の重要性がこれまで過小評価されてきたことを示唆しています。科学がこの事実を明らかにし続ける中で、マーケティングの分野でも経験則をサポートし、新たなインサイトや戦略が生まれることを期待しています。

<脚注>
1.    大黒摩季 「ら・ら・ら」
2.    https://issuu.com/mccanntruthcentral/docs/mccann_truth_about_youth
3.    ただし、推定に使った計算モデルには異論も出されていて、1兆という数には注意が必要。
4.    https://www.nytimes.com/2021/01/02/health/coronavirus-smell-taste.html

<文献>
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