社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #05

共感が希薄な時代、マーケターが追求すべき「他者への関わり」と「価値の創出」【LIFULL篠崎亮氏】

 

「身近」に介する責任。深層意識の価値観を尊重する


 生活者は、どのようなブランドと付き合いたい、どこの企業がつくっているから買いたい、あの人が使っているから使いたいといった、時代の影響や経験から、深層意識で価値観を保有しています。

 この深層意識の価値観の中で、言語化や表出されてない欲求はインサイトと呼ばれ、近年のマーケティングでは、金脈のように魅力的なキーワードとして扱われます。また、無意識下の偏見を指すアンコンシャスバイアスなども、最近は聞くことが増えたと思います。

 こういった無意識の価値観自体に良し悪しの印象をお持ちの方もいるかもしれないですが、それは顕在化した言動に対する社会や企業の時の評価や主張であり、生活者の目線に立てば、深層意識にある個人の価値観は潜在的なものであって、良いも悪いもありません。

 そして、マーケターという仕事は、生活者のその深層意識の価値観に寄り添い、「身近」に感じてもらえるよう目線をあわせてアプローチしていく必要があります。それが時に、聞き苦しい欲求であったり、偏った価値観だったりしてもです。

 そして、その深層意識にある価値観を、消費などの行動に顕在化させるよう促すからには、責任も伴うものだと思います。このプロセスを軽んじて、一方的な考えを押し付ければ、ジェンダー関連の広告等で時に炎上が見られるように、生活者や社会からの反発を招いてしまいます。

 深層意識の価値観への寄り添いの例として、本連載の4回目でも触れたNetflixの別のメッセージの事例を取り上げます。
 

「Don’t give up on your dreams. We started with DVDs(夢を諦めるな。私たちだってDVDから始めたんだ。)」と書かれたこの看板は、Netflixの起源である、郵送によりDVDを貸し出すサービスを終了した2023年に、ロサンゼルスのサンセット大通りで掲出されました。新型コロナウイルスのパンデミック以降、多くの人が職を失った余波が残る世界に、成功者が夢や努力を押し付けるのではなく、多くを持たなかった時代に立ち戻って目線を合わせ、勇気を与えるようとする姿勢が多くの共感を生みました。

 これら世の中の他者同士を「意味」でつなぐことを鑑みて、私はマーケティングとは、資本主義社会における「関わり」を生み出すことだと考えています。生活者や社会との関係を深く追求するものであり、企業都合の自社ありきの思考ではなく、世の中や生活者ありきの思考性を持つものです。

 他者の「意味」を理解する気概が薄れた混沌とした時代の中でも、マーケターは常に生活者や社会との「関わり方」を模索し続けなければなりません。この根気強さを持つことは、決して容易ではありませんが、マーケターが生活者に「意味」を見出してもらう仕掛けをつくることは、世の中の他者同士を「意味」でつなぐことともなり、意義深いことだと私は考えます。


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